他人の名誉を毀損する事実を摘示した者は、その重要な部分について真実性を立証することによつて、免責を受けることができる。
他人の名誉を毀損する事実を摘示した者が免責を受けるために真実性を立証すべき範囲
民法710条
判旨
刑事告発およびその事実の公表による名誉毀損について、公表事実の重要部分が真実であるか、あるいは真実と信じたことに相当な理由がある場合には、不法行為は成立しない。
問題の所在(論点)
刑事告発およびその事実を新聞記者に公表する行為が、名誉毀損による不法行為(民法709条)を構成するか。特に、事実が真実でなかった場合に、真実と信じたことの「相当な理由」が認められるかが問題となる。
規範
公的な関心事に関する事実を公表して他人の名誉を毀損した場合、(1)その事実が真実であることの証明があるか、あるいは(2)真実であると信じたことについて相当な理由があるときは、違法性または有責性が否定され、不法行為は成立しない(刑法230条の2の法理を不法行為法に適用)。
重要事実
被上告人らは、上告人A1およびA2らが行ったとされる行為について刑事告発を行い、その事実を新聞記者に公表した。A1については告発事実が虚偽とは言えず、重要部分について真実性の証明がなされた。一方、A2については、実際には別の者が行った行為であったが、被上告人らは主治医としての立場等からA2が当該行為者であると信じて告発・公表に及んだ。
事件番号: 昭和28(オ)406 / 裁判年月日: 昭和30年3月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不法行為に基づき、捜査機関への誤った犯人申告によって被申告者が勾留され、新聞記事で名誉を毀損された場合、その間に警察官や検察官の判断、新聞記者の取材行為等が介在したとしても、相当因果関係は否定されない。 第1 事案の概要:上告人は、確たる証拠がないにもかかわらず、漠然とした記憶に基づいて軽々しく被…
あてはめ
A1に関する告発・公表については、確定した事実関係に基づき、重要部分について真実性の証明があるため、違法性が阻却される。A2に関する告発・公表については、真実性の証明はないものの、被上告人らが訴外Eの主治医としての状況等から、当該行為者をA2であると信じたことには「相当な理由」が認められる。したがって、被上告人らには故意または過失が認められない。
結論
A1・A2いずれに対する告発および公表も不法行為を構成しない。本件上告は棄却される。
実務上の射程
刑事告発に伴う記者会見等の名誉毀損事案において、真実相当性の判断枠組みを適用する典型例である。答案上は、まず真実性の存否を検討し、それが否定される場合に「相当な理由」の有無(過失の成否)を論じる際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和53(オ)940 / 裁判年月日: 昭和55年10月30日 / 結論: 棄却
スロツトマシンの販売を業とする会社が右機械を賭博用に改造して販売したとの被疑事実によりその代表者が被疑者として逮捕された事実を記事として新聞紙上に掲載したが、その内容が真実に反して、右会社がスロツトマシンの賭博用改造工場を有し、その代表者は右工場で大量のスロツトマシンを賭博用に改造し、これを暴力団員に売渡し賭博幇助罪を…
事件番号: 昭和37(オ)815 / 裁判年月日: 昭和41年6月23日 / 結論: 棄却
名誉毀損については、当該行為が公共の利害に関する事実に係りもつぱら公益を図る目的に出た場合において、摘示された事実が真実であることが証明されたときは、その行為は、違法性を欠いて、不法行為にならないものというべきである。