名誉毀損については、当該行為が公共の利害に関する事実に係りもつぱら公益を図る目的に出た場合において、摘示された事実が真実であることが証明されたときは、その行為は、違法性を欠いて、不法行為にならないものというべきである。
公共の利害に関する事実の摘示と名誉毀損の成否
民法710条
判旨
名誉毀損において、公共の利害に関し公益目的でなされた行為は、摘示事実が真実であるか、真実と信ずるに足りる相当の理由があれば不法行為は成立しない。刑法230条の2の趣旨を民事上も取り入れ、違法性または故意・過失を否定する判断枠組みを示したものである。
問題の所在(論点)
民事上の不法行為(名誉毀損)において、摘示事実が真実でない場合に、不法行為の成立を否定するための要件および判断枠組み。
規範
名誉毀損行為が、(1)公共の利害に関する事実に係り、(2)専ら公益を図る目的に出た場合において、(3)摘示された事実が真実であると証明されたときは、違法性がなく不法行為は成立しない。また、真実であることの証明がない場合であっても、(4)行為者がその事実を真実と信ずるについて相当の理由があるときは、故意または過失がなく、やはり不法行為は成立しない。
重要事実
衆議院議員選挙の立候補者である上告人に対し、被上告人が経営する新聞紙上で、上告人の学歴・経歴詐称、公職選挙法違反の疑い、および前科の存在を報じる記事が掲載された。記事内容のうち、経歴詐称の点については真実ではなかったが、それ以外の点は真実であり、かつ経歴詐称の点についても被上告人が真実と信ずるに足りる相当の理由があった。
あてはめ
まず、上告人が国会議員選挙の候補者であったことに鑑みれば、その適否判断に資する本件記事の内容は公共の利害に関する事実であり、公益目的も認められる。次に、記事の主要部分は真実であり、真実でなかった経歴詐称の点についても、被上告人において真実と信ずるに足りる相当の理由が認められる。したがって、違法性が欠けるか、または故意・過失が欠けるため、不法行為は成立しない。
結論
本件記事の掲載には真実性の証明または真実相当性があるため、名誉毀損による不法行為は成立せず、上告を棄却する。
実務上の射程
名誉毀損の違法性阻却事由および責任阻却事由(真実相当性)を確立したリーディングケースである。答案上は、真実性の証明がある場合は「違法性阻却」、真実性の証明がないが相当理由がある場合は「故意・過失の否定(責任阻却)」という二段構えで論証を構成する際に用いる。
事件番号: 昭和53(オ)940 / 裁判年月日: 昭和55年10月30日 / 結論: 棄却
スロツトマシンの販売を業とする会社が右機械を賭博用に改造して販売したとの被疑事実によりその代表者が被疑者として逮捕された事実を記事として新聞紙上に掲載したが、その内容が真実に反して、右会社がスロツトマシンの賭博用改造工場を有し、その代表者は右工場で大量のスロツトマシンを賭博用に改造し、これを暴力団員に売渡し賭博幇助罪を…
事件番号: 昭和37(オ)1001 / 裁判年月日: 昭和38年2月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】他者を侮辱する言動が不法行為(民法709条)を構成する場合、被害者の言動等の諸事情を斟酌して慰謝料額を算定することが認められる。また、具体的な侮辱行為が権利侵害に当たるとした原審の判断は、特段の事情がない限り正当として維持される。 第1 事案の概要:上告人(控訴人)が被上告人(被控訴人)に対し、原…