スロツトマシンの販売を業とする会社が右機械を賭博用に改造して販売したとの被疑事実によりその代表者が被疑者として逮捕された事実を記事として新聞紙上に掲載したが、その内容が真実に反して、右会社がスロツトマシンの賭博用改造工場を有し、その代表者は右工場で大量のスロツトマシンを賭博用に改造し、これを暴力団員に売渡し賭博幇助罪を犯したような印象を与えるものであつた場合に、右被疑者の扱つたスロツトマシンの多くが米軍の払下げを受け又は輸入された中古品の再生品であつて、被疑者自身が賭博用に改造したものかどうかの断定は容易でなく、また、捜査官から被疑者の供述結果を聞く等の裏付けをとることをせず、いまだ当局が正式の発表をしていない段階で記事を作成、掲載したという事情があるときは、右記事の一部は捜査責任者から得た情報に基づくものであり、かつ、記者において、被疑者が逮捕、捜索されているところを現認したうえで作成された等、原判示の事情が存する場合であつても、新聞社の担当者においてその内容を真実と信じたことについて、相当の理由があつたものとはいえない。
新聞記事の掲載にあたりその内容を真実と信ずるにつき相当の理由があるとはいえないとされた事例
民法709条,民法710条
判旨
名誉毀損における不法行為の成否に関し、事実を真実と誤信したことについて「相当の理由」が認められない場合には、損害賠償責任を免れない。
問題の所在(論点)
名誉毀損による不法行為の成否において、事実の真実性を誤信した行為者に「相当の理由」が認められるか(民法709条の過失の有無)。
規範
公表した事実が真実であると証明されない場合であっても、行為者が当該事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて「相当の理由」があるときは、故意又は過失が否定され、不法行為は成立しない。
重要事実
上告会社(新聞社等)の担当者が、特定の記事の内容を真実であると信じて公表した。しかし、原審において、当該記事の内容が真実であると信じるに至った経緯や調査の程度を検討した結果、真実と信じるに足りる客観的・合理的な根拠が欠けていると判断された。
あてはめ
上告会社の各担当者が記事内容を真実と信じたことについて、原審が確定した事実関係(具体的な調査内容や資料の裏付け)に照らせば、真実と信じるべき客観的な事情が不十分である。したがって、誤信について「相当の理由」があるとはいえず、過失の存在が推認される。
結論
上告会社の抗弁(真実相当性の主張)を排斥し、名誉毀損に基づく損害賠償責任を認めた原判決は正当である。
実務上の射程
夕刊和歌山時報事件(最判昭44.6.25)の法理を承継・適用した事例である。答案上では、公共性・公益目的がある場合でも、真実相当性の要件(相当の理由)を具体的事実に基づき厳格に検討すべきことを示す際に引用する。
事件番号: 昭和28(オ)406 / 裁判年月日: 昭和30年3月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不法行為に基づき、捜査機関への誤った犯人申告によって被申告者が勾留され、新聞記事で名誉を毀損された場合、その間に警察官や検察官の判断、新聞記者の取材行為等が介在したとしても、相当因果関係は否定されない。 第1 事案の概要:上告人は、確たる証拠がないにもかかわらず、漠然とした記憶に基づいて軽々しく被…
事件番号: 昭和37(オ)815 / 裁判年月日: 昭和41年6月23日 / 結論: 棄却
名誉毀損については、当該行為が公共の利害に関する事実に係りもつぱら公益を図る目的に出た場合において、摘示された事実が真実であることが証明されたときは、その行為は、違法性を欠いて、不法行為にならないものというべきである。