判旨
告訴・告発等の申告が不法行為を構成するためには、申告者が相手方を犯人と信じて申告するにつき過失があったといえることが必要である。
問題の所在(論点)
特定の者を犯罪の被疑者として警察官に申告する行為が、民法709条の不法行為を構成するための要件、特に「過失」の有無の判断枠組みが問題となる。
規範
犯罪の申告(告訴・告発等)が名誉毀損等の不法行為(民法709条)を構成するか否かは、申告者が申告内容を真実であると信じるにつき、相当の理由(過失の欠如)があったか否かによって判断される。具体的には、申告時における諸客観的事実に照らし、申告者が相手方を犯人と信じて申告するにつき過失があるといえない場合には、不法行為は成立しない。
重要事実
上告人(原告)が被上告人(被告)から、ある被疑事件の犯人であるとして警察官に申告された。これに対し上告人は、当該申告が不当であり名誉を毀損されたとして損害賠償を求めた。原審(第2審)は、被上告人が上告人を当該事件の犯人と信じて申告するにつき、過失があるとはいえないと認定・判断した。上告人はこれを不服として、経験則違背や条理違背等を理由に上告した。
あてはめ
本件では、原審が認定した具体的な事実関係(詳細は判決文からは不明であるが、所論として挙げられた複数の事実)に基づき検討された。最高裁は、被上告人が上告人を犯人と信じて警察官に申告したことについて「過失があるものとはいえない」とした原審の判断を、条理や経験則に照らして適法であると肯定した。申告者が真実と信じるに足りる状況があったといえる以上、不法行為上の過失は否定される。
結論
被上告人が上告人を犯人と信じて警察官に申告した行為につき、過失があるとはいえないため、不法行為は成立しない(上告棄却)。
実務上の射程
事件番号: 昭和34(オ)15 / 裁判年月日: 昭和35年11月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不法行為に基づく損害賠償請求において、過失相殺の抗弁が認められるためには、証拠によって相手方の過失が確実に認定される必要がある。 第1 事案の概要:上告人の運転するオートバイと、右折しようとした被上告人の車両が衝突した事案。第一審および原審は、被上告人が右折時に約200メートル前方に上告人のオート…
告訴・告発が不当であったとして損害賠償請求がなされた際の、違法性・有責性の判断基準として活用できる。申告者の主観的確信を支える客観的状況の有無に注目し、過失の有無を論じる際の拠り所となる。
事件番号: 昭和28(オ)406 / 裁判年月日: 昭和30年3月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不法行為に基づき、捜査機関への誤った犯人申告によって被申告者が勾留され、新聞記事で名誉を毀損された場合、その間に警察官や検察官の判断、新聞記者の取材行為等が介在したとしても、相当因果関係は否定されない。 第1 事案の概要:上告人は、確たる証拠がないにもかかわらず、漠然とした記憶に基づいて軽々しく被…