名誉毀損の行為者において刑事第一審の判決を資料としてその認定事実と同一性のある事実を真実と信じて摘示した場合には、特段の事情がない限り、摘示した事実を真実と信ずるについて相当の理由がある。
名誉毀損の行為者が刑事第一審の判決を資料として事実を適示した場合と右事実を真実と信ずるについての相当の理由
民法709条,民法710条,刑法230条の2第1項
判旨
公的判決等を資料として事実を摘示した場合、特段の事情がない限り、後にその事実が否定されても「真実と信ずるに足りる相当の理由」が認められ、名誉毀損の故意・過失が否定される。
問題の所在(論点)
刑事第一審判決を資料として事実を摘示したが、後に控訴審で認定が覆された場合、民法709条の故意・過失を否定するための「真実と信ずるに足りる相当の理由」があるといえるか。特に、執筆者が控訴の事実を知っていたことが相当性の判断に影響するか。
規範
名誉毀損において、公共性・公益目的が認められる場合、摘示事実が真実であると証明されなくとも、行為者が「真実と信ずるについて相当の理由」があるときは故意・過失が否定され不法行為は成立しない。特に、刑事第一審判決の認定事実と同一性のある事実を当該判決を資料として摘示した場合には、判決の認定に疑いを入れるべき特段の事情がない限り、相当の理由が認められる。
重要事実
刑法学者である被告は、元会社社長である原告の業務上横領事件について、第一審判決の内容に基づき書籍に「公私混同のかぎりをつくした」旨を執筆した。執筆当時、被告は原告が控訴中であることを認識していたが、第一審判決を資料として、有罪とされた事実や量刑理由で指摘された事実を摘示した。しかし、その後の控訴審判決では、第一審で有罪とされた事実の多くが無罪へと覆された。原告は、書籍の記述により名誉を毀損されたとして損害賠償を請求した。
事件番号: 平成20(受)1427 / 裁判年月日: 平成21年10月23日 / 結論: その他
特別養護老人ホームの入所者に対して虐待行為が行われている旨の新聞記事が同施設の職員からの情報提供等を端緒として掲載されたことにつき,同施設を設置経営する法人が,虐待行為につき複数の目撃供述等が存在していたにもかかわらず,虐待行為はなく上記の情報は虚偽であるとして同職員に対し損害賠償請求訴訟を提起した場合であっても,(1…
あてはめ
刑事判決は慎重な手続に基づき裁判官が証拠によって認定したものであり、確実な根拠があると信じるには無理からぬものがある。本件の記述のうち、第一審で有罪とされた事実(甲)や量刑理由中の事実(丙)は、判決の認定内容と同一性が認められる。また、無罪とされた事実(乙)についても、判決が「不当な流用」等の外形的付随事実を認めている以上、記述の文脈から同一性が認められる。執筆者が刑法学者であり、控訴の事実を知っていたとしても、判決の認定に疑いを入れる特段の事情がない限り、第一審判決を信頼して執筆したことに相当な理由が認められるべきである。
結論
被告が記述内容を真実と信じたことには相当の理由があり、名誉毀損による不法行為責任(故意・過失)は成立しない。
実務上の射程
公的な公表資料(特に刑事判決)に基づく記述の免責範囲を広く認めた事例。控訴中という不安定な状態であっても、判決そのものの信頼性を重視する。ただし、判決の要旨を歪曲して引用した場合や、判決自体の信頼性を疑うべき事情がある場合には、なお相当性が否定される余地がある。
事件番号: 平成21(受)1539 / 裁判年月日: 平成22年7月9日 / 結論: 破棄差戻
本訴の提起が不法行為に当たることを理由とする反訴について,本訴に係る請求原因事実と相反することとなる本訴原告自らが行った事実を積極的に認定しながら,本訴原告において記憶違いや通常人にもあり得る思い違いをしていたことなどの事情について認定説示することなく,本訴の提起が不法行為に当たることを否定した原審の判断には,違法があ…
事件番号: 昭和38(オ)1406 / 裁判年月日: 昭和41年7月28日 / 結論: 棄却
原審の確定した事実関係のもとにおいては、弁護士の法廷における証人尋問活動を対象としてソフィストの詭弁術等と批評した雑誌論文の公表をもつて、右弁護士の名誉を毀損する不法行為を構成するものとはいえない。