特別養護老人ホームの入所者に対して虐待行為が行われている旨の新聞記事が同施設の職員からの情報提供等を端緒として掲載されたことにつき,同施設を設置経営する法人が,虐待行為につき複数の目撃供述等が存在していたにもかかわらず,虐待行為はなく上記の情報は虚偽であるとして同職員に対し損害賠償請求訴訟を提起した場合であっても,(1)虐待行為をしたとされる職員が一貫してこれを否認していたこと,(2)情報提供者である職員の目撃状況についての報告内容につき同施設の施設長は矛盾点があると感じていたこと,(3)入所者の身体に暴行のこん跡があったとの確たる記録もなく,後に公表された市の調査結果においても個別の虐待事例については証拠等により特定するには至らなかったとされたことなど判示の事実関係の下においては,同訴訟の提起は違法な行為とはいえない。
特別養護老人ホームの入所者に対して虐待行為が行われている旨の新聞記事が同施設の職員からの情報提供等を端緒として掲載されたことにつき,同施設を設置経営する法人が,複数の目撃供述等が存在していたにもかかわらず,虐待行為はなく上記の情報は虚偽であるとして同職員に対してした損害賠償請求訴訟の提起が,違法な行為とはいえないとされた事例
民法709条,民訴法第2編第1章
判旨
訴えの提起が不法行為となるのは、主張した権利が事実的・法律的根拠を欠き、かつ提訴者がそれを知り、または通常人なら容易に知り得た場合など、裁判制度の趣旨に照らし著しく相当性を欠くときに限られる。本件では、施設側が調査の結果、虐待の事実がないと判断したことに相応の理由があり、提訴が著しく相当性を欠くとはいえない。
問題の所在(論点)
正当な権利行使としての側面を持つ「訴えの提起」が、いかなる要件を満たす場合に相手方に対する不法行為(民法709条)となるか。
規範
訴えの提起が不法行為を構成するのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、提訴者がそのことを知りながら、又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られる。
事件番号: 平成9(オ)411 / 裁判年月日: 平成11年10月26日 / 結論: その他
名誉毀損の行為者において刑事第一審の判決を資料としてその認定事実と同一性のある事実を真実と信じて摘示した場合には、特段の事情がない限り、摘示した事実を真実と信ずるについて相当の理由がある。
重要事実
社会福祉法人である上告人が、介護職員である被上告人らによる「施設内での虐待」の情報提供により名誉を毀損されたとして損害賠償を請求(本訴)。一方、被上告人らは、本訴の提起等が嫌がらせであり不法行為に当たるとして反訴を提起した。実際には虐待の事実は存在したが、施設長は、加害者とされた職員が否認し、入所者の身体に確たる痕跡がなく、市の調査でも特定に至らなかったことから、虐待はないと確信して提訴に及んでいた。
あてはめ
本件では、複数の目撃供述等はあったものの、①対象職員が一貫して否認していたこと、②通報者の報告内容に不審な点があると施設長が感じていたこと、③入所者の身体に暴行の痕跡等の客観的記録がなかったこと、④行政調査でも特定に至らなかったことが認められる。これらによれば、施設側が根拠なく虐待がないと思い込んだとはいえず、主張が根拠を欠くことを容易に知り得たとまではいえない。また、提訴が組織的な嫌がらせの一環であったとも認められない。
結論
本件訴えの提起は、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものとはいえず、不法行為を構成しない(反訴請求に関する原判決を破棄し差し戻し)。
実務上の射程
不当訴訟による損害賠償請求(不法行為)の判断基準。裁判を受ける権利(憲法32条)への配慮から、要件を「著しく相当性を欠くとき」に限定する。実務上は、単に敗訴しただけでは足りず、提訴時の調査義務違反や悪意・重過失を厳格に主張・立証する必要がある。
事件番号: 平成7(オ)160 / 裁判年月日: 平成11年4月22日 / 結論: その他
甲と乙とが乗車中の自動二輪車の交通事故により死亡した甲の相続人が,捜査機関が甲を運転者と認定したことを知りながら,乙を運転者と主張して乙に対して損害賠償請求訴訟を提起した場合であっても,右主張に沿う事故直前の目撃者らの供述があり,現場の状況,自動二輪車の損傷状況などの客観的証拠からは運転者を特定することが必ずしも容易で…
事件番号: 平成21(受)1539 / 裁判年月日: 平成22年7月9日 / 結論: 破棄差戻
本訴の提起が不法行為に当たることを理由とする反訴について,本訴に係る請求原因事実と相反することとなる本訴原告自らが行った事実を積極的に認定しながら,本訴原告において記憶違いや通常人にもあり得る思い違いをしていたことなどの事情について認定説示することなく,本訴の提起が不法行為に当たることを否定した原審の判断には,違法があ…