個人情報の漏えいを理由とする損害賠償請求訴訟における損害に関する原審の判断に審理不尽の違法があるとされた事例
判旨
顧客の氏名、住所、電話番号等の個人情報が漏洩した場合、当該個人情報はプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるため、漏洩によって直ちにプライバシー侵害が成立し得る。この場合、迷惑行為や財産的損害の発生が認められないとしても、不快感や不安を超える精神的損害が発生しているか否か、およびその程度について個別に審理すべきであり、具体的な実害がないことのみを理由に直ちに不法行為上の損害を否定することはできない。
問題の所在(論点)
顧客の個人情報が漏洩した場合において、ダイレクトメールの送付や架空請求などの具体的な迷惑行為・財産的損害が現実化していない場合であっても、プライバシー侵害を理由とする精神的損害(慰謝料)が認められるか。また、損害の発生を「不快感や不安を超える損害」の有無のみで判断できるか。
規範
氏名、性別、生年月日、住所、電話番号等の個人情報は、個人のプライバシーに係る情報として法的保護の対象となる。これらの情報が本人の意に反して外部に漏洩した場合、それ自体が不法行為(民法709条)上の権利侵害となり得る。また、不法行為における損害の存否については、具体的な迷惑行為や財産的損害の有無のみならず、プライバシー侵害による精神的苦痛(慰謝料)の有無および程度を個別に評価すべきである。
重要事実
通信教育会社である被上告人が管理していた顧客(上告人およびその子)の氏名、住所、電話番号等の個人情報が、業務委託先の従業員により不正に持ち出され、名簿業者に売却・漏洩した。原審は、上告人が迷惑行為や財産的損害を被ったことの立証がないとして、不快感や不安を超える損害を認めず、請求を棄却した。
あてはめ
本件で漏洩した氏名や住所等の情報は、個人の識別を可能にするプライバシー情報であり、法的保護の対象となる。したがって、漏洩の事実により上告人のプライバシーが侵害されたといえる。原審は、具体的な不利益(迷惑行為等)がないことのみを理由に損害を否定したが、プライバシー侵害に伴う精神的苦痛は不快感等と不可分であり、侵害の態様や漏洩後の状況等に照らして精神的損害の有無・程度を具体的に審理すべきである。それを行わずに直ちに請求を棄却した原審の判断は、損害に関する法令の解釈適用を誤ったものである。
結論
原判決を破棄し、精神的損害の有無および程度について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻す。
実務上の射程
プライバシー侵害における損害論に関し、「実害がない=損害なし」とする形式的な論理を否定し、精神的苦痛の有無を実質的に審理すべき指針を示したもの。ベネッセ個人情報漏洩事件に対する最高裁の判断として、実務上、大規模な情報漏洩における慰謝料請求の可能性を広く認める重要な意義を持つ。
事件番号: 平成22(受)1485 / 裁判年月日: 平成23年9月13日 / 結論: 破棄差戻
1 有価証券報告書等に虚偽の記載がされている上場株式を取引所市場において取得した投資者が,当該虚偽記載がなければこれを取得することはなかったとみるべき場合において,当該虚偽記載の公表後に上記株式を取引所市場において処分したときは,上記投資者に生じた当該虚偽記載と相当因果関係のある損害の額は,その取得価額と処分価額との差…
事件番号: 平成21(受)609 / 裁判年月日: 平成22年4月13日 / 結論: その他
1 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律4条1項に基づく発信者情報の開示請求に応じなかった特定電気通信役務提供者は,当該開示請求が同項各号所定の要件のいずれにも該当することを認識し,又は上記要件のいずれにも該当することが一見明白であり,その旨認識することができなかったことにつき重大…