請負人である破産者Aが,その支払の停止の前に,注文者Yとの間で複数の請負契約を締結していた場合において,上記の各請負契約に,Aの責めに帰すべき事由により工期内に工事が完成しないときはYが当該請負契約を解除することができるとの約定及び同約定により当該請負契約が解除されたときはYが一定額の違約金債権を取得するとの約定があるという事実関係の下では,YがAの支払の停止を知った後に上記の各約定に基づき上記各請負契約のうち工事が未完成であるものを解除して各違約金債権を取得したことは,破産法72条2項2号にいう「支払の停止があったことを破産者に対して債務を負担する者が知った時より前に生じた原因」に基づく場合に当たり,上記各違約金債権を自働債権,上記各請負契約のうち報酬が未払のものに基づく各報酬債権を受働債権とする相殺は,自働債権と受働債権とが同一の請負契約に基づくものであるか否かにかかわらず,許される。
請負人である破産者の支払の停止の前に締結された請負契約に基づく注文者の破産者に対する違約金債権の取得が,破産法72条2項2号にいう「前に生じた原因」に基づく場合に当たり,上記違約金債権を自働債権とする相殺が許されるとされた事例
破産法72条1項3号,破産法72条2項2号
判旨
支払停止を知った後の契約解除により生じた違約金債権であっても、停止前に締結された契約に基づき発生するものである以上、破産法72条2項2号の「支払の停止があったことを知った時より前に生じた原因」に基づく破産債権に当たり、相殺が認められる。この場合、自働債権と受働債権が同一の契約に基づくものであるか否かを問わず、相殺の担保的機能に対する期待は合理的なものとして保護される。
問題の所在(論点)
支払停止を知った後に行われた契約解除によって取得した違約金債権が、破産法72条2項2号の「支払の停止があったことを……知った時より前に生じた原因」に基づく破産債権に該当するか。また、その相殺が認められるために、自働債権と受働債権が同一の契約に基づいている必要があるか。
規範
破産法72条2項2号が相殺を禁止しない趣旨は、支払停止等を知る前に生じた原因に基づき破産債権を取得した者の相殺の担保的機能に対する合理的な期待を保護する点にある。したがって、解除等により現実に債権を取得したのが支払停止を知った後であっても、その発生の基礎となる契約関係等が支払停止前に形成されており、相殺による一括清算が予定されていたといえる場合には、同号にいう「前に生じた原因」に基づく取得に当たり、相殺が許容される。この際、自働債権と受働債権が同一の契約に基づくものであることは要しない。
重要事実
注文者である上告人と請負人である破産会社は、複数の請負契約を締結していた。各契約には「請負人の責めに帰すべき事由により工期内に工事が完成せず契約解除された場合、報酬額の10分の1の違約金を支払う」旨の条項(本件条項)があった。破産会社が支払停止に陥り、それを知った上告人は本件各契約を解除し、違約金債権を取得した。その後、上告人は当該違約金債権を自働債権とし、破産会社が有していた別個の契約に基づく報酬債権等を受働債権として相殺を主張した。
あてはめ
本件各違約金債権は、支払停止後に解除によって現実に取得されたものであるため、原則として同条1項3号の相殺禁止の対象となる。しかし、その債権発生の根拠となる請負契約および本件条項は、いずれも支払停止前に締結・合意されている。本件条項の内容に照らせば、当事者は支払停止等の事態において違約金債権と報酬債権を一括清算することを予定していたといえる。そうであれば、債権者が有していた相殺の担保的機能への期待は、自受働債権が同一の契約に基づくか否かにかかわらず合理的なものであり、これを認めても破産債権者間の公平を害さない。したがって、本件は同条2項2号に該当すると評価される。
結論
本件相殺は有効である。自働債権と受働債権が同一の契約に基づかない場合であっても、破産法72条2項2号に基づき相殺は禁止されない。
実務上の射程
破産法上の相殺禁止の例外規定(72条2項各号)の解釈において、原因の先後を実質的に判断した重要な判例である。特に「継続的取引関係」や「同一のひな形による複数契約」において、契約関係が支払停止前に存在していれば、解除後の債権取得でも相殺が広く認められる可能性を示した。実務上は、単一の契約内の牽連性に限定せず、一括清算の予定(期待)の有無を主張の骨子とする。
事件番号: 昭和52(オ)1306 / 裁判年月日: 昭和53年9月21日 / 結論: 棄却
請負人の注文者に対する報酬債権と注文者の請負人に対する目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権とは、右両債権額が異なる場合であつても相殺することが許される。
事件番号: 平成5(オ)2187 / 裁判年月日: 平成9年7月15日 / 結論: その他
一 請負人の報酬債権に対し注文者がこれと同時履行の関係にある瑕疵修補に代わる損害賠償債権を自働債権とする相殺の意思表示をした場合、注文者は、相殺後の報酬残債務について、相殺の意思表示をした日の翌日から履行遅滞による責任を負う。 二 (省略)