請負人の注文者に対する報酬債権と注文者の請負人に対する目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権とは、右両債権額が異なる場合であつても相殺することが許される。
債権額の異なる請負人の報酬債権と注文者の目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権とを相殺することの許否
民法505条,民法533条,民法634条
判旨
請負人の報酬債権と注文者の瑕疵修補に代わる損害賠償債権は、同時履行の関係にあるが、相互に現実の履行をさせる特別の利益はなく、相殺を認めても相手方に不利益を与えないため、相殺が許容される。
問題の所在(論点)
請負契約における注文者の瑕疵修補に代わる損害賠償債権と、請負人の報酬債権が同時履行の関係にある場合、注文者からこれらを対当額で相殺することが認められるか。同時履行の抗弁権が付着する債権を自働債権とする相殺の可否が問題となる。
規範
同時履行の抗弁権が付着する債権を自働債権とする相殺は、原則として許されない。しかし、請負契約の報酬債権と瑕疵修補に代わる損害賠償債権は、同一の原因関係に基づき、実質的・経済的には請負代金を減額して当事者間の等価関係をもたらす機能を有する。したがって、両債権間に現実の履行をさせなければならない特段の利益はなく、相殺による清算的調整を認めても抗弁権喪失による不利益は生じないため、相殺は許容される。
重要事実
注文者(被上告人)が請負人(上告人)に対し、建物の完成・引渡後に工事代金の支払を求めた事案。注文者は、建物に瑕疵があるとして瑕疵修補に代わる損害賠償請求権を取得した。注文者は、この損害賠償請求権を自働債権とし、請負人の工事代金債権(受働債権)と相殺する旨の予備的相殺の主張を行った。これに対し請負人側は、両債権が同時履行の関係にあることから、相殺は認められないと主張した。
事件番号: 平成5(オ)2187 / 裁判年月日: 平成9年7月15日 / 結論: その他
一 請負人の報酬債権に対し注文者がこれと同時履行の関係にある瑕疵修補に代わる損害賠償債権を自働債権とする相殺の意思表示をした場合、注文者は、相殺後の報酬残債務について、相殺の意思表示をした日の翌日から履行遅滞による責任を負う。 二 (省略)
あてはめ
本件の両債権は、請負契約という同一の法律関係から生じた対価的牽連性を有する金銭債権である。損害賠償債権は実質的に代金減額の機能を有しており、当事者間の公平を図るためのものである。このような実質関係に鑑みれば、相互に現実の履行を強制する必要性は乏しく、相殺によって法律関係を簡明に決済することが当事者双方の便宜にかなう。したがって、抗弁権の存在を理由に相殺を禁止する必要はなく、両債権の金額に差異があっても相殺は可能であると解される。
結論
請負人の報酬債権と注文者の損害賠償債権は、その対当額において相殺を認めるのが相当である。したがって、相殺を認めた原審の判断は正当である。
実務上の射程
同時履行の関係にある債権間であっても、相殺を認めることが公平かつ簡明な解決に資し、かつ相手方の抗弁権を不当に奪うことにならない特段の事情がある場合には、例外的に相殺が認められるとする基準を示したもの。請負契約の場面において極めて汎用性の高い規範である。
事件番号: 平成31(受)61 / 裁判年月日: 令和2年9月8日 / 結論: 破棄自判
請負人である破産者Aが,その支払の停止の前に,注文者Yとの間で複数の請負契約を締結していた場合において,上記の各請負契約に,Aの責めに帰すべき事由により工期内に工事が完成しないときはYが当該請負契約を解除することができるとの約定及び同約定により当該請負契約が解除されたときはYが一定額の違約金債権を取得するとの約定がある…
事件番号: 平成16(受)519 / 裁判年月日: 平成18年4月14日 / 結論: 破棄自判
本訴及び反訴が係属中に,反訴原告が,反訴請求債権を自働債権とし,本訴請求債権を受働債権として相殺の抗弁を主張することは,異なる意思表示をしない限り,反訴を,反訴請求債権につき本訴において相殺の自働債権として既判力ある判断が示された場合にはその部分を反訴請求としない趣旨の予備的反訴に変更するものとして,許される。