本訴及び反訴が係属中に,反訴原告が,反訴請求債権を自働債権とし,本訴請求債権を受働債権として相殺の抗弁を主張することは,異なる意思表示をしない限り,反訴を,反訴請求債権につき本訴において相殺の自働債権として既判力ある判断が示された場合にはその部分を反訴請求としない趣旨の予備的反訴に変更するものとして,許される。
反訴請求債権を自働債権とし本訴請求債権を受働債権とする相殺の抗弁の許否
民法505条,民訴法114条2項,民訴法142条,民訴法143条,民訴法146条
判旨
本訴及び反訴が係属中に、反訴請求債権を自働債権として相殺の抗弁を主張することは、反訴が予備的反訴に変更されたものと解されるため二重起訴の禁止に抵触せず許容され、相殺後の残債務の履行遅滞は相殺の意思表示をした時から生じる。
問題の所在(論点)
1. 係属中の反訴債権を自働債権として、本訴において相殺の抗弁を主張することは重複起訴(民訴法142条)に抵触するか。 2. 相殺後の残債務について、いつから履行遅滞の責任を負うか(反訴提起時か、具体的相殺時か)。
規範
1. 本訴・反訴係属中に反訴請求債権を自働債権として相殺の抗弁を主張することは、特段の意思表示がない限り、反訴を「相殺により既判力ある判断が示された場合にはその部分を請求しない」旨の予備的反訴に変更したものと解される。この構成により民訴法142条の重複起訴の禁止には抵触しない。 2. 請負人の瑕疵修補に代わる損害賠償債務と注文者の請負代金債務は同時履行の関係に立つ。請負人が相殺の意思表示をした場合、相殺後の残債務について履行遅滞に陥るのは、相殺の意思表示をした日の翌日からである。単なる反訴提起をもって相殺の意思表示と解することはできない。
重要事実
注文者Xは、請負人A(後に相続人Yらが訴訟承継)に対し、建物の瑕疵に基づく損害賠償を求めて本訴を提起した。これに対しAは請負残代金の支払を求める反訴を提起した。第1審係属中に、Yらは反訴請求債権を自働債権、本訴請求債権を受働債権として相殺の意思表示をし、本訴への抗弁とした。原審は、反訴提起をもって相殺の意思表示と事実上同視し、反訴状送達日の翌日から履行遅滞が生じると判断したため、Yらが上告した。
事件番号: 平成30(受)2064 / 裁判年月日: 令和2年9月11日 / 結論: 破棄自判
請負契約に基づく請負代金債権と同契約の目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権の一方を本訴請求債権とし,他方を反訴請求債権とする本訴及び反訴が係属中に,本訴原告が,反訴において,上記本訴請求債権を自働債権とし,上記反訴請求債権を受働債権とする相殺の抗弁を主張することは許される。
あてはめ
1. Yらによる相殺の抗弁は、反訴請求債権のうち相殺で判断される部分を予備的に除外する趣旨の「予備的反訴」への変更を伴う。これは審判対象の実質的な変更がなく、Xの利益も損なわないため、重複起訴の問題は生じない。 2. Xの損害賠償債権とAの代金債権は同時履行の関係にあるため、相殺までは遅滞に陥らない。Aによる反訴提起は代金全額の支払を求めるものであり、当然に相殺の意思表示を含むとは解せない。したがって、Yらが口頭弁論期日で明示的に相殺の意思表示をした平成14年3月8日の翌日から履行遅滞が発生する。
結論
反訴債権での相殺は許容される。履行遅滞は反訴提起時(平成6年)ではなく、相殺の意思表示をした翌日の平成14年3月9日から生じる。
実務上の射程
訴訟上の相殺と重複起訴の関係を整理した重要判例である。答案上では、別訴における相殺(原則禁止)と、本訴・反訴間での相殺(本判決により例外的に許容)を明確に区別して論じる必要がある。また、請負の同時履行関係がある場合の履行遅滞起算点についても、本判決の「相殺の意思表示時」という枠組みをそのまま用いるべきである。
事件番号: 昭和59(オ)543 / 裁判年月日: 昭和60年5月17日 / 結論: その他
請負契約が請負人の責に帰すべき事由により中途で終了した場合において、残工事の施工に要した費用として、注文者が請負人に賠償を請求することができるのは、右費用のうち、未施工部分に相当する請負代金額を超える部分に限られる。
事件番号: 平成2(オ)1456 / 裁判年月日: 平成6年4月21日 / 結論: 棄却
当事者が損害賠償の額を予定した場合においても、債務不履行に関し債権者に過失があったときは、特段の事情のない限り、裁判所は、損害賠償の責任及びその金額を定めるにつき、これをしんしゃくすべきである。
事件番号: 昭和52(オ)1306 / 裁判年月日: 昭和53年9月21日 / 結論: 棄却
請負人の注文者に対する報酬債権と注文者の請負人に対する目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権とは、右両債権額が異なる場合であつても相殺することが許される。
事件番号: 昭和53(オ)1198 / 裁判年月日: 昭和54年9月7日 / 結論: 棄却
双方の過失に起因する同一交通事故によつて生じた物的損害に基づく損害賠償債権相互間においても、相殺は許されない。 (反対意見がある。)