裁判所は,ハーグ条約実施法の規定する子の返還申立事件に係る家事調停において,子を返還する旨の調停が成立した後に,事情の変更により同調停における子を返還する旨の定めを維持することを不当と認めるに至った場合は,同法117条1項の規定を類推適用して,当事者の申立てにより,上記定めを変更することができる。
ハーグ条約実施法の規定する子の返還申立事件に係る家事調停における子を返還する旨の定めと同法117条1項の類推適用
国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(ハーグ条約実施法)117条1項,国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(ハーグ条約実施法)145条3項
判旨
国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(以下「実施法」)に基づく子の返還条項を含む調停が成立した後に、事情の変更により同条項を維持することが不当となった場合、実施法117条1項を類推適用して同条項を変更することができる。
問題の所在(論点)
実施法117条1項は、その文言上「子の返還を命ずる終局決定」を対象としている。子の返還合意が成立した「調停(子の返還条項)」についても、同条1項を直接ないし類推適用して変更を求めることができるか。
規範
実施法117条1項は、子の返還を命ずる終局決定の確定後、事情の変更により当該決定の維持が不当となった場合に決定の変更を認めている。この趣旨は、迅速な返還の要請がある一方で、返還前の事情変更により決定維持が子の利益の観点から不当となる場合に備える点にある。子の返還条項を含む調停は確定した終局決定と同一の効力を有し(同法145条3項)、決定の場合と同様に子の利益を保護する必要がある。したがって、同法117条1項を類推適用し、調停成立後の事情の変更により子の返還条項の維持を不当と認めるに至ったときは、当事者の申立てにより同条項を変更できると解すべきである。
重要事実
事件番号: 平成29(許)9 / 裁判年月日: 平成29年12月21日 / 結論: 棄却
国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律に基づくXの申立てによりその子であるA,B,C及びDを米国に返還するよう命ずる終局決定が確定した場合において,次の(1)~(4)などの事情の下では,A及びBについては同法28条1項ただし書の規定を適用すべきであるとはいえず,C及びDについては同項4号の返還拒否…
抗告人(母)と相手方(父)はロシアで同居していたが、子と共に日本に入国した。相手方は実施法に基づき子の返還を申し立て、調停において抗告人が子をロシアに返還する旨の合意(本件返還条項)が成立した。しかし、返還期限経過後も子は日本に留まり、抗告人は調停成立後の事情変更により本件返還条項の維持が不当になったとして、実施法117条1項に基づき条項の変更を申し立てた。
あてはめ
子の返還条項は実施法145条3項により確定した終局決定と同一の効力を有する。調停においても、決定の場合と同様、返還前に事情が変更し、当初の返還合意を維持することが子の利益を著しく害する事態が生じ得る。なお、原審は返還条項のみの変更は他の合意事項(養育費等)との調整を困難にすると指摘するが、他の定めは別途家事事件手続法上の変更手続等で対処可能であり、類推適用を否定する理由にはならない。よって、本件でも事情変更の有無を審理し、維持が不当であれば変更を認めるべきである。
結論
実施法117条1項を類推適用して子の返還条項を変更することは可能である。したがって、申立てを却下した原決定を破棄し、事情変更の存否について審理を尽くさせるため本件を差し戻す。
実務上の射程
子の返還請求における調停成立後の事情変更(子の心身の状況の著しい変化等)に対応する手段を認めた点に実務上の意義がある。答案上は、実施法の準用・類推適用の可否が問われた際、条文の趣旨(子の利益保護)と効力の同一性(145条3項)から論理を展開する際の指針となる。
事件番号: 令和3(許)8 / 裁判年月日: 令和4年6月21日 / 結論: 棄却
ハーグ条約実施法134条に基づき子の返還を命ずる終局決定を債務名義としてされた間接強制の方法による子の返還の強制執行の申立ては、当該申立ての後に当該終局決定を債務名義とする子の返還の代替執行により子の返還が完了したという事実関係の下においては、不適法である。
事件番号: 昭和46(ク)52 / 裁判年月日: 昭和46年7月8日 / 結論: 棄却
家事審判法九条一項乙類七号に規定する親権者の変更の審判は、本質的に非訟事件の裁判であつて、公開の法廷における対審および判決によつてする必要はなく、したがつて、公開の法廷における口頭弁論に基づかないでされた右審判に対する抗告事件についてされた決定は、憲法三二条、八二条に違反しない。
事件番号: 平成25(許)26 / 裁判年月日: 平成26年4月14日 / 結論: 破棄自判
戸籍事務管掌者は,親権者変更の確定審判に基づく戸籍の届出について,当該審判が無効であるためその判断内容に係る効力が生じない場合を除き,当該審判の法令違反を理由に上記届出を不受理とする処分をすることができない。
事件番号: 令和1(許)16 / 裁判年月日: 令和2年8月6日 / 結論: 破棄差戻
家庭裁判所は,財産の分与に関する処分の審判において,当事者双方がその協力によって得た一方当事者の所有名義の不動産であって他方当事者が占有するものにつき,当該他方当事者に分与しないものと判断した場合,その判断に沿った権利関係を実現するため必要と認めるときは,家事事件手続法154条2項4号に基づき,当該他方当事者に対し,当…