国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律に基づくXの申立てによりその子であるA,B,C及びDを米国に返還するよう命ずる終局決定が確定した場合において,次の(1)~(4)などの事情の下では,A及びBについては同法28条1項ただし書の規定を適用すべきであるとはいえず,C及びDについては同項4号の返還拒否事由があるものとして,上記決定の確定後の事情の変更によってこれを維持することが不当となるに至ったと認め,同法117条1項の規定によりこれを変更し,上記申立てを却下するのが相当である。 (1) 上記決定は,A及びBについては,同法28条1項5号の返還拒否事由があると認めながら,米国に返還することが子の利益に資すると認めて同項ただし書の規定を適用すべきものとし,C及びDについては,返還拒否事由があるとは認められないことなどを理由とするものであった。 (2) Xは,子らを適切に監護するための経済的基盤を欠いており,その監護養育について親族等から継続的な支援を受けることも見込まれない状況にあったところ,上記決定の確定後,居住していた自宅を明け渡し,それ以降,子らのために安定した住居を確保することができなくなった結果,子らが米国に返還された場合のXによる監護養育態勢が看過し得ない程度に悪化した。 (3) A及びBは,米国に返還されることを一貫して拒絶している。 (4) C及びDのみを米国に返還すると,密接な関係にある兄弟姉妹を日本と米国とに分離する結果を生ずる。 (補足意見がある。)
国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律に基づき子の返還を命じた終局決定が同法117条1項の規定により変更された事例
国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律28条1項,国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律117条1項
判旨
1. ハーグ条約実施法28条1項5号の返還拒否事由が認められる子について、返還命令確定後に返還義務者の監護養育態勢が看過し得ない程度に悪化した場合には、同項ただし書の「子の利益に資する」とは認められず、事情変更による返還命令の取消し(同法117条1項)が認められる。 2. 密接な関係にある兄弟姉妹の一部に返還拒否事由が認められる結果、残る年少の子のみを分離して返還させることが子を耐え難い状況に置く場合には、同項4号の返還拒否事由(重大な危険)が認められる。
問題の所在(論点)
子の返還を命ずる終局決定の確定後に、返還を求める親の経済的基盤や住居が失われた場合、実施法117条1項の「事情の変更」により決定を変更し、返還申立てを却下できるか。また、兄弟姉妹の分離が同法28条1項4号の返還拒否事由に当たるか。
事件番号: 令和1(許)14 / 裁判年月日: 令和2年4月16日 / 結論: 破棄差戻
裁判所は,ハーグ条約実施法の規定する子の返還申立事件に係る家事調停において,子を返還する旨の調停が成立した後に,事情の変更により同調停における子を返還する旨の定めを維持することを不当と認めるに至った場合は,同法117条1項の規定を類推適用して,当事者の申立てにより,上記定めを変更することができる。
規範
1. 実施法28条1項5号ただし書の「子の利益に資する」か否かの判断においては、子の意思のみならず、返還後の監護養育態勢や生活基盤の安定性をも総合的に考慮すべきであり、確定判決後にこれらの態勢が看過し得ない程度に悪化した場合には、特段の事情がない限り返還を命ずることはできない。 2. 実施法28条1項4号の「重大な危険」の有無は、返還に伴う生活環境の変化のみならず、兄弟姉妹との分離が子に与える心理的・身体的影響をも考慮して判断される。特に密接な関係にある兄弟姉妹を日本と外国に分離する結果を招く場合には、当該事由を肯定し得る。
重要事実
1. 米国から子4名を連れて帰国した相手方に対し、抗告人が返還を申し立て、一旦は返還を命ずる決定(変更前決定)が確定した。 2. 変更前決定当時、長男・二男(11歳)は返還を強く拒絶していたが、裁判所は「返還が子の利益に資する」として同法28条1項5号ただし書を適用した。また、長女・三男(6歳)については成熟度不足等を理由に拒絶事由を認めなかった。 3. 決定確定後、抗告人の米国での自宅が競売により失われ、知人宅の一室に身を寄せるなど監護養育態勢が悪化した。 4. 代替執行が試みられたが、本件子ら全員が抗告人との面会を拒絶し、執行不能となった。
あてはめ
1. 抗告人は、本件子らを監護するための経済的基盤を欠き、決定確定後に住居を明け渡したことで、米国での監護養育態勢が看過し得ない程度に悪化した。これは「事情の変更」に当たる。 2. 返還を一貫して拒絶する長男・二男について、上記態勢の悪化を踏まえると、もはや返還が「子の利益に資するもの」とは認められない。よって、28条1項5号ただし書の適用は認められず、返還は拒否される。 3. 長女・三男については、密接な関係にある長男・二男と分離して米国へ返還されることになれば、子を耐え難い状況に置くこととなる「重大な危険」があるといえる。したがって、同項4号の拒否事由が認められる。
結論
変更前決定を維持することは不当であるため、実施法117条1項に基づきこれを取り消し、抗告人の返還申立てを却下した原審の判断は正当である。
実務上の射程
返還義務者の経済状況や住居の喪失が、実施法117条1項の「事情の変更」となり得ること、および兄弟姉妹不分離の原則が同法28条1項4号の判断において重要な要素となることを示した。
事件番号: 令和3(許)8 / 裁判年月日: 令和4年6月21日 / 結論: 棄却
ハーグ条約実施法134条に基づき子の返還を命ずる終局決定を債務名義としてされた間接強制の方法による子の返還の強制執行の申立ては、当該申立ての後に当該終局決定を債務名義とする子の返還の代替執行により子の返還が完了したという事実関係の下においては、不適法である。
事件番号: 平成28(許)43 / 裁判年月日: 平成29年12月12日 / 結論: 破棄差戻
1 仲裁人が当事者に対して仲裁法18条4項にいう「自己の公正性又は独立性に疑いを生じさせるおそれのある」事実が生ずる可能性があることを抽象的に述べたことは,同項にいう「既に開示した」ことに当たらない。 2 仲裁人が,当事者に対して仲裁法18条4項にいう「自己の公正性又は独立性に疑いを生じさせるおそれのある」事実を開示し…
事件番号: 平成18(許)47 / 裁判年月日: 平成19年3月23日 / 結論: 破棄自判
1 民法が実親子関係を認めていない者の間にその成立を認める内容の外国裁判所の裁判は,民訴法118条3号にいう公の秩序に反するものとして,我が国において効力を有しない。 2 女性が自己以外の女性の卵子を用いた生殖補助医療により子を懐胎し出産した場合においても,出生した子の母は,その子を懐胎し出産した女性であり,出生した子…
事件番号: 平成29(許)17 / 裁判年月日: 平成29年12月5日 / 結論: 棄却
離婚した父母のうち子の親権者と定められた父が法律上監護権を有しない母に対し親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求めることは,次の(1)~(3)など判示の事情の下においては,権利の濫用に当たる。 (1) 子が7歳であり,母は,父と別居してから4年以上,単独で子の監護に当たってきたものであって,母による上記監護が子の…