離婚した父母のうち子の親権者と定められた父が法律上監護権を有しない母に対し親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求めることは,次の(1)~(3)など判示の事情の下においては,権利の濫用に当たる。 (1) 子が7歳であり,母は,父と別居してから4年以上,単独で子の監護に当たってきたものであって,母による上記監護が子の利益の観点から相当なものではないことの疎明がない。 (2) 母は,父を相手方として子の親権者の変更を求める調停を申し立てている。 (3) 父が,子の監護に関する処分としてではなく,親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求める合理的な理由を有することはうかがわれない。 (補足意見がある。)
離婚した父母のうち子の親権者と定められた父が法律上監護権を有しない母に対し親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求めることが権利の濫用に当たるとされた事例
民法1条3項,民法820条
判旨
離婚した父母のうち親権者と定められた一方が、法律上監護権を有しない他方に対し、親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求めることは、子の利益を害する場合、権利の濫用として許されない。
問題の所在(論点)
離婚後の単独親権者が、非監護親に対して民事上の親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求めることができるか。また、その行使が権利の濫用となる基準は何か。
規範
1. 離婚後の単独親権者は、民事訴訟の手続により、親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを請求し得る。2. もっとも、親権は子の利益のために行使されるべきものである(民法820条)から、子の利益を害する親権の行使は権利の濫用(同1条3項)として許されない。3. 権利濫用の判断にあたっては、現在の監護状況の相当性、引渡しによる養育環境の変化が子に与える影響、家事事件手続法上の手続によらず民事手続を選択する合理的理由の有無等を総合考慮する。
重要事実
事件番号: 令和3(許)17 / 裁判年月日: 令和4年11月30日 / 結論: 破棄自判
婚姻中の父母のうち父に対して子を母に引き渡すよう命ずる審判の確定から約2か月の間に2回にわたり子が母に引き渡されることを拒絶する言動をしたにとどまるなど判示の事実関係の下では、子の心身に有害な影響を及ぼすことのないように配慮しつつ子の引渡しを実現するため合理的に必要と考えられる父の行為を具体的に想定することは困難である…
抗告人(父)と相手方(母)は、長男をもうけたが別居し、母が4年以上単独で監護を継続してきた。その後、長男の親権者を父と定めて協議離婚したが、長男は引き続き母が監護した。母が親権者変更の調停を申し立てたところ、父は民事上の親権に基づく妨害排除請求権を被保全権利として、子の引渡しを求める仮処分を申し立てた。なお、母による監護が不相当であるとの疎明はない。
あてはめ
1. 母は4年以上にわたり単独で監護を継続しており、その監護が長男の利益に反するとの疎明はない。2. 母により親権者変更調停が申し立てられている状況下で引渡しを認めれば、将来的に再度引渡しが生じる可能性があり、短期間での養育環境の変化は長男の利益を著しく害する。3. 家庭裁判所における「子の監護に関する処分」の手続(家事事件手続法)によれば、子の意思把握や福祉への配慮が図られる。4. これらと比較して、あえて民事手続を選択する合理的理由も認められない。したがって、本件請求は長男の利益を害するものである。
結論
本件引渡し請求は権利の濫用に当たり、認められない。
実務上の射程
人身保護請求や家事審判ではなく、民事上の「親権に基づく妨害排除」としての引渡しを認めた従来の判例(最判昭35.3.15等)を維持しつつ、民法820条を根拠に「子の利益」の観点から権利濫用による制約をかけた。答案上は、家事手続(子の監護に関する処分)が本来の解決手段であることを示唆しつつ、民事手続を選択することの不自然さを権利濫用の考慮要素として活用すべきである。
事件番号: 令和2(許)4 / 裁判年月日: 令和3年3月29日 / 結論: 破棄自判
父母以外の第三者は,事実上子を監護してきた者であっても,家庭裁判所に対し,家事事件手続法別表第2の3の項所定の子の監護に関する処分として上記第三者と子との面会交流について定める審判を申し立てることはできない。
事件番号: 平成30(許)13 / 裁判年月日: 平成31年4月26日 / 結論: 破棄自判
婚姻中の父母のうち父に対して長男A,二男B及び長女Cを母に引き渡すよう命ずる審判を債務名義とするAの引渡しについての間接強制の申立ては,次の(1),(2)など判示の事情の下では,権利の濫用に当たる。 (1) 上記審判を債務名義とする引渡執行の際,B及びCが母に引き渡されたにもかかわらず,A(当時9歳3箇月)については,…
事件番号: 令和2(許)14 / 裁判年月日: 令和3年3月29日 / 結論: 破棄自判
父母以外の第三者は,事実上子を監護してきた者であっても,家庭裁判所に対し,家事事件手続法別表第2の3の項所定の子の監護に関する処分として子の監護をすべき者を定める審判を申し立てることはできない。
事件番号: 平成24(許)41 / 裁判年月日: 平成25年3月28日 / 結論: 棄却
監護親に対し非監護親が子と面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判において,面会交流の頻度等につき1箇月に2回,土曜日又は日曜日に1回につき6時間とする旨定められているが,子の引渡しの方法については何ら定められていないなど判示の事情の下では,監護親がすべき給付が十分に特定されているとはいえず,上記審判に基づ…