上告裁判所が原判決を破棄するに当たり,原審の公判審理に関与していない裁判官が原判決に関与した違法があるという破棄事由の性質,被告事件の内容,審理経過等本件事情の下では,必ずしも口頭弁論を経ることを要しない。
上告裁判所が原判決を破棄するに当たり,口頭弁論を経ることを要しないとされた事例
刑訴法411条1号,刑訴法43条1項,刑訴法408条,刑訴規則54条,刑訴規則55条
判旨
公判審理に関与していない裁判官が判決書に署名押印した事案において、口頭弁論を経ることなく、判決に影響を及ぼすべき法令の違反があるとして原判決を差し戻した判決である。
問題の所在(論点)
公判審理に関与していない裁判官が判決書に署名押印した場合の判決の効力、および上告審が当該事由により原判決を破棄差戻しする際に口頭弁論を経る必要があるか。
規範
1. 公判審理に関与していない裁判官が判決に関与することは、判決に影響を及ぼすべき法令の違反(刑訴法411条1号)にあたり、これを破棄しなければ著しく正義に反する。2. 上記のような事由に基づき原判決を破棄し差し戻す場合、刑訴法408条の趣旨に照らし、必ずしも口頭弁論を経ることを要しない。
重要事実
被告人が公務執行妨害罪に問われた事件において、原審(控訴審)の公判審理に全く関与していない裁判官が、原審の判決書に判決をした裁判官として署名押印した。
あてはめ
記録によれば、原審の公判審理に関与していない裁判官が判決書に署名押印している事実は明らかである。これは、直接主義・口頭主義の観点から許容されない重大な手続違反であり、刑訴法411条1号の破棄事由に該当する。また、本件の手続違反の性質や事件の内容に鑑みれば、口頭弁論を経ずとも、刑訴法408条の趣旨(上告棄却の場合の簡略化)を類推ないし参酌し、直ちに破棄差戻しの判決をすることが許容される。
結論
原判決を破棄し、本件を東京高等裁判所に差し戻す。
実務上の射程
裁判官の構成という刑事訴訟の本質に関わる重大な手続違反がある場合、上告審は口頭弁論という不可欠な手続を省略して、職権で迅速に破棄差戻しを行うことができるとする実務指針を示すものである。
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