判旨
審理に関与していない裁判官が判決書に署名し、裁判を行ったことは、刑事訴訟法上の重大な手続違反であり、破棄事由に該当する。
問題の所在(論点)
審理に関与していない裁判官が判決に関与(署名)した場合に、刑事訴訟法411条1号の「判決に影響を及ぼすべき法令の違反」として、判決を破棄すべき事由に該当するか。
規範
判決には、その事件の審理(口頭弁論)に関与した裁判官が加わらなければならない。これに反して審理に関与しない裁判官が裁判をした場合には、訴訟手続の法令違反として、刑事訴訟法411条1号(判決に影響を及ぼすべき法令の違反)に基づき、破棄事由となる。
重要事実
被告人の控訴審において、原判決の判決書には判事石塚誠一が署名していた。しかし、当該裁判官は原審(控訴審)の審理過程には一切関与していなかったことが、職権による調査により判明した。弁護人は大審院判例との相反を理由に上告したが、最高裁判所は職権でこの手続的瑕疵を問題とした。
あてはめ
本件において、原判決に署名した石塚判事は、記録上の訴訟経過に照らせば原審の審理に全く関与していない。直接主義・口頭主義を原則とする刑事訴訟手続において、審理に関与しない裁判官が裁判を行うことは、裁判の適正を著しく害するものである。このような重大な違法は、同法411条1号に該当し、かつこれを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。
結論
原判決を破棄し、本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
実務上の射程
裁判官の構成の適法性を争う場合の根拠となる。特に、公判継続中に裁判官が交代したにもかかわらず更新手続(刑訴法315条)を怠った場合や、合議体の構成員に齟齬がある場合など、直接主義の根格に関わる瑕疵を指摘する際の論拠として活用できる。
事件番号: 昭和26(れ)57 / 裁判年月日: 昭和26年5月25日 / 結論: 破棄差戻
右A判事が本件第一審の裁判に関与した判事であつたことはすべて所論のとおりである。然らば右A判事は前審関与として当然原審において本件の審理につき職務の執行から除斥せらるべきものであるから、同判事を構成員として開かれた右原審第八回公判手続が違法であることは勿論、右公判調書における証人の供述記載を事実認定の資料に供することも…
事件番号: 令和1(あ)1987 / 裁判年月日: 令和2年1月31日 / 結論: 破棄差戻
上告裁判所が原判決を破棄するに当たり,原審の公判審理に関与していない裁判官が原判決に関与した違法があるという破棄事由の性質,被告事件の内容,審理経過等本件事情の下では,必ずしも口頭弁論を経ることを要しない。