判旨
判決書に署名捺印した裁判官が、公判期日において審理を終結した裁判官と異なる場合は、審理に関与しない裁判官が判決に関与した違法がある。このような違法は、判決に影響を及ぼすべきものであり、刑訴法411条に基づき破棄すべき事由に該当する。
問題の所在(論点)
審理に関与した裁判官と判決書に署名捺印した裁判官が異なる場合、刑事訴訟法上の違法(審理に関与しない裁判官の関与)にあたるか。また、それが刑訴法411条の破棄事由となるか。
規範
判決に関与する裁判官は、原則として直接主義・口頭主義の観点から、当該事件の審理に関与した裁判官でなければならない。審理を終結した裁判官と、実際に判決書に署名捺印した裁判官が一致しない場合、それは「審理に関与しなかった裁判官が判決に関与した」ことになり、判決に影響を及ぼす重大な違法となる。
重要事実
本件の原審において、昭和25年10月18日の第2回公判期日で審理を終結した裁判官は藤島利郎、飯田一郎、鈴木重光の3名であった。しかし、作成された原判決に署名捺印している裁判官は、藤島利郎、飯田一郎、井波七郎の3名であった。すなわち、審理に関与していた鈴木判事に代わり、審理に関与していない井波判事が判決に関与していた。
あてはめ
一件記録によれば、本件の審理を終結したのは藤島、飯田、鈴木の3氏である一方、原判決の署名捺印者は藤島、飯田、井波の3氏である。井波判事は本件の審理に関与していないことが認められる。そうであれば、原判決は「審理に関与しなかった裁判官の関与」の下になされたものであり、手続上の重大な過誤があるといえる。この違法は、判決の適正を根底から損なうものであり、判決に影響を及ぼすべきこと自明であり、破棄しなければ著しく正義に反すると解される。
結論
審理に関与しない裁判官が判決に関与した違法があるため、原判決を破棄し、本件を東京高等裁判所に差し戻す。
実務上の射程
裁判所の構成の適法性に関する基本的な判例である。現行の刑訴法378条1号(法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと)の絶対的控訴理由にも通ずる論理であり、答案上は判決の有効性や手続の適法性が問われる場面で、直接主義・口頭主義の要請から導かれる原則として引用する。
事件番号: 昭和26(れ)57 / 裁判年月日: 昭和26年5月25日 / 結論: 破棄差戻
右A判事が本件第一審の裁判に関与した判事であつたことはすべて所論のとおりである。然らば右A判事は前審関与として当然原審において本件の審理につき職務の執行から除斥せらるべきものであるから、同判事を構成員として開かれた右原審第八回公判手続が違法であることは勿論、右公判調書における証人の供述記載を事実認定の資料に供することも…