判旨
第一審判決に掲げられた証拠の作成者名が記録上の作成者名と多少相違していても、それが単なる誤記または脱字であることが記録上明白であれば、判決に影響を及ぼす違法とはならない。
問題の所在(論点)
判決書に掲記された証拠の標目(作成者氏名)と、実際の記録上の証拠との間に不一致がある場合、その不一致が「誤記・脱字」の範囲に留まるときでも、判決に影響を及ぼす違法(刑訴法335条1項、378条等)となるか。
規範
判決書における証拠の掲記に誤りがあったとしても、記録上の客観的事実と照らし合わせて、それが単なる表示上の誤記または脱字であることが明らかであり、かつ判決がその真実の証拠に基づいていることが明瞭である場合には、実質的な審理の正当性は失われず、判決の違法を構成しない。
重要事実
被告人が上告した事案において、第一審判決が証拠として掲記した「顛末書」の作成者(被害者)の氏名と、実際に記録に綴り込まれている顛末書の作成者の氏名との間に、数箇所の食い違い(誤記および脱字)が存在した。弁護人はこれを理由に憲法違反および判決の不当を主張して上告した。
あてはめ
本件における氏名の不一致は、第一審判決の掲記と記録上の顛末書を対照すると、いずれも単なる誤記または脱字に過ぎないことが記録上明らかである。また、第一審判決が各犯罪事実につき、実際に記録に含まれている各顛末書を実質的な証拠として判断したことも明瞭である。したがって、形式的な表示の誤りがあるからといって、証拠に基づかない事実認定をしたものとはいえない。
結論
本件の氏名の相違は単なる誤記・脱字に過ぎず、判決を破棄すべき正当な理由には当たらないため、上告を棄却する。
実務上の射程
判決書の記載ミスが「判決に影響を及ぼすべき書式・手続の違法」となるかどうかの境界を示す。明白な誤記であれば更正の対象、あるいは上告審での維持が可能であることを示唆しており、形式的な不備のみを理由とした上告の制限に活用できる。
事件番号: 昭和26(あ)385 / 裁判年月日: 昭和27年12月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判決における証拠の引用に単純な表示上の誤りがあるとしても、その誤りが記録に照らして明白である場合には、判決の効力に影響を及ぼすような違法とはならない。 第1 事案の概要:被告人が上告した事案において、第一審判決が証拠として引用した検察事務官に対する供述調書の回数につき、本来「第二、三回」と記載すべ…