判旨
公判調書に弁護人の氏名が遺脱していても、他の記載内容から弁護人の出頭が客観的に認められる場合には、訴訟手続に違法はない。
問題の所在(論点)
公判調書に弁護人の氏名の記載が遺脱している場合、それが直ちに刑事訴訟法上の訴訟手続の法令違反(必要的弁護事件等における不適法な開廷など)として上告理由となるか。
規範
公判調書の記載に一部欠落(遺脱)がある場合であっても、調書全体の記載内容や関連する書面(控訴趣意書等)との関係から、当該手続が適法に行われたことが客観的に確認できるのであれば、実質的な訴訟手続の法令違反には当たらない。
重要事実
被告人が控訴した原審の第一回公判において、作成された公判調書に、本来記載されるべき出頭した弁護人の氏名が遺脱していた。しかし、同調書には「弁護人が自己の提出に係る控訴趣意書に基づいて陳述した」旨の記載があり、記録上、その控訴趣意書の提出者は弁護士滝川正澄であることが明らかであった。
あてはめ
本件では、公判調書自体に弁護人の氏名の記載はないものの、調書内には弁護人が提出済みの控訴趣意書に基づき陳述した旨が明記されている。この控訴趣意書の提出者が特定の弁護士である事実に照らせば、当該弁護士が公判に出頭し、弁護活動を行ったことは明白である。したがって、氏名記載の遺脱は形式的な不備に留まり、手続の適法性を揺るがす重大な違法とは評価されない。
結論
弁護人の氏名が遺脱していても、他の記載から弁護人の出頭が認められる以上、手続に違法はなく、本件上告は棄却される。
実務上の射程
公判調書の形式的記載不備が直ちに無効事由となるわけではなく、調書全体の合理的な解釈によって手続の適正さが担保される。実務上は、調書の形式的誤謬を理由とする無益な破棄を回避する判断枠組みとして機能する。
事件番号: 昭和56(あ)1888 / 裁判年月日: 昭和57年2月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公判調書中の被告事件名欄における明白な誤記は、上告理由となるような重大な違法を構成しない。 第1 事案の概要:本件の被告人は刑事裁判の控訴審判決に対し上告を申し立てた。その際、弁護人は原審(控訴審)の第2回公判調書における「被告事件名」欄の記載に誤りがあることを指摘し、憲法38条3項(自白の証拠能…