被告人を死刑に処した裁判員裁判による第1審判決を量刑不当として破棄し無期懲役に処した原判決の刑の量定が維持された事例
刑法199条,刑訴法411条2号
判旨
無差別殺人であっても、事案により被害結果や動機、計画性の有無、犯行遂行の意思の強固さは様々であり、これらを総合して非難の程度を判断すべきである。2名の生命を奪った残虐な無差別殺人であっても、精神障害の影響や計画性の欠如、自首に近い状況等の諸事情を考慮し、死刑の選択が相当とはいえない場合がある。
問題の所在(論点)
被害者2名の無差別殺人という重大な事案において、死刑の選択を回避し無期懲役とした原判決の量刑判断が、刑罰の均衡や公平性の観点から是認されるか。
規範
死刑の適用は、究極の刑罰として慎重に行われなければならず、公平性の確保も必要である(永山基準の枠組み)。無差別殺人においては、生命侵害の危険性や生命軽視の度合いが通常大きいが、その非難の程度は、被害者数のみならず、動機・経緯、計画性の有無・程度、犯行態様、犯行遂行の意思の強固さを総合して決すべきである。
重要事実
被告人は覚せい剤中毒後遺症による幻聴がある中、将来への不安から自暴自棄となり、白昼の繁華街で面識のない通行人2名を包丁で相次いで刺殺した。被告人は犯行直前に包丁を購入したが、具体的な計画はなく場当たり的であった。また、警察官の一喝で犯行を止め、抵抗せず逮捕に応じた。第一審は死刑としたが、原審は無期懲役としたため、検察官が上告した。
あてはめ
本件は執拗かつ残虐な態様で2名を殺害しており、刑事責任は誠に重い。しかし、①覚せい剤中毒後遺症による幻聴が犯行の一因であること、②更生が叶わず自暴自棄に陥った経緯に斟酌の余地があること、③強固な犯意の形成が直前であり、具体的な計画性のない場当たり的な犯行であること、④警察官の指示に従い抵抗せず逮捕され、悔悟の情を示していることを考慮すべきである。これらに照らせば、犯行遂行の意思が極めて強固であったとまでは認められず、生命軽視の度合いが甚だしく顕著とはいえない。
事件番号: 昭和62(あ)1062 / 裁判年月日: 平成5年12月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】死刑の選択は、犯行の罪質、動機、態様、結果、社会的影響、遺族の被害感情、被告人の前科、犯行後の情状等を総合考慮し、その罪責が極めて重大であって、やむを得ない場合に許される。 第1 事案の概要:被告人は、債務の支払猶予を請うた際、債権者Aから脅迫的言動を受け、持参したライフル銃を突きつけられたことに…
結論
本件について死刑を選択しなかった原判決が、甚だしく不当で正義に反するとは認められない。上告棄却(無期懲役が維持される)。
実務上の射程
被害者が2名の事案における死刑選択の境界線を示す。特に無差別殺人であっても、計画性の欠如や精神的要因、犯行後の態度といった「犯行遂行の意思の強固さ」を否定する要素が重なる場合には、慎重な判断が求められることを明確にしている。答案上は、永山基準の「犯行の態様」「殺害の手段方法」「計画性」等の項目を具体的に検討する際の指針となる。
事件番号: 平成18(あ)2339 / 裁判年月日: 平成20年4月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が暴力団幹部5名を射殺した事案において、死刑の適用が妥当であると判断された事例(いわゆる永山基準の枠組みを踏襲)。 第1 事案の概要:暴力団幹部である被告人は、住宅街にある事務所において、所持していた拳銃で同組織の幹部5名を次々と射殺した。動機について被告人は、被害者らによる自らの殺害計画が…
事件番号: 平成21(あ)1877 / 裁判年月日: 平成24年1月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】1名の殺害であっても、行政対象暴力の極みといえる反社会的な動機に基づき、公職の候補者を狙った計画的かつ残忍な犯行については、無期懲役を選択した原審の判断は量刑不当とはいえない。殺害人数が1名であることや、個人的な恨みの暴発という側面、利欲目的や政治的信条の欠如といった事情も量刑評価において軽視でき…
事件番号: 平成24(あ)1647 / 裁判年月日: 平成27年2月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】死刑制度(執行方法を含む)が憲法13条、31条、36条に違反しないことは当裁判所の判例とするところであり、本件のごとき極めて重大な刑事責任が認められる無差別殺人事件において死刑を選択することは妥当である。 第1 事案の概要:被告人は、インターネット掲示板や職場での嫌がらせに対する怒りから、無差別殺…
事件番号: 平成18(あ)417 / 裁判年月日: 平成20年2月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】死刑の適用は、事案の性質、犯行の態様・結果の重大性、遺族の被害感情、社会的影響、犯人の年齢、前科、犯行後の情状等を総合的に考慮し、その罪責が極めて重大であって、罪刑の均衡の観点からも、一般予防の観点からも死刑の選択がやむを得ないと認められる場合に限って許される。 第1 事案の概要:被告人は、暴力団…