死刑の量刑が維持された事例(山口周南市連続殺人放火事件)
刑法11条,刑法199条,刑訴法411条2号
判旨
妄想が動機の形成過程に影響していたとしても、自らの価値観に基づき犯行を選択・実行し、その影響が限定的であるならば、完全責任能力を認めた上で、死刑判決を維持することは正当である。
問題の所在(論点)
妄想が犯行動機に影響を与えている事案において、被告人の刑事責任をどのように評価し、死刑を選択することが許されるか。
規範
死刑の選択が許容されるか否かの判断においては、犯行の性質、動機、態様(特に殺意の強固さや執拗性・残忍性)、結果の重大性(殺害人数)、遺族の処罰感情、社会的影響、犯人の年齢、前科、犯行後の情状等を総合的に考慮し、その責任が極めて重大であって、罪刑均衡及び一般予防の観点からやむを得ない場合に限られる。また、精神障害に伴う妄想が動機に影響している場合であっても、それが犯行の意思決定に及ぼした影響の程度、自己の価値観に基づく選択の余地の有無等を考慮し、刑事責任の程度を判断すべきである。
重要事実
被告人は、約10年間にわたり近隣住民から嫌がらせを受けているとの妄想を抱き、報復として一晩のうちに近隣住居4軒を襲撃。住人5名を木製棒で多数回殴打する等の方法で殺害し、うち2軒を放火により全焼させた。殺害態様は、頭部への多数回殴打や口腔内への棒の挿入など執拗かつ残忍なものであった。被告人には前科はなかった。
あてはめ
まず、犯行態様は木製棒で頭部等を多数回殴打し脳挫滅等に至らせるもので、強固な殺意に基づく執励かつ残忍なものといえる。次に、5名という多数の生命を奪った結果は誠に重大であり、遺族の処罰感情も厳しい。動機面では、近隣住民への報復という点に妄想の影響が認められる。しかし、被告人は自らの価値観に基づいて犯行に及ぶことを選択し実行しており、妄想が犯行全体に及ぼした影響は大きなものではないと評価できる。したがって、前科がない等の事情を考慮しても、被告人の刑事責任は極めて重大である。
事件番号: 平成25(あ)1329 / 裁判年月日: 平成28年2月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】死刑制度およびその執行方法は憲法31条、36条に違反しない。また、精神障害(妄想)が犯行の動機形成に介在していても、それが限定的であり、犯行自体が一貫性のある合目的的な行動である場合には、死刑の選択は許容される。 第1 事案の概要:被告人は精神障害による妄想(嫌がらせを受けている等)を抱き、世間へ…
結論
被告人の完全責任能力を肯定し、死刑に処した第1審判決を維持した原判断は相当であり、是認せざるを得ない。
実務上の射程
妄想等の精神障害が動機に影響している事案(いわゆる山口連続放火殺人事件)における死刑選択の可否を示す。妄想の存在が直ちに責任能力の減退や死刑回避に直結するのではなく、犯行の意思決定における妄想の影響度や、自己の価値観に基づく選択の有無という実質的な責任の重さを重視する判断枠組みとして重要である。
事件番号: 平成25(あ)729 / 裁判年月日: 平成27年5月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】責任能力の判断において、精神障害の有無等の専門家意見は尊重すべきだが、鑑定が犯行に特有な事情(被告人の性格や確執の経緯等)への考察を欠く場合は「採用し得ない合理的な事情」があるといえる。本件では妄想性障害の影響を認めつつも、犯行の合目的性や現実的動機に基づき、完全責任能力を肯定した原判断を維持した…
事件番号: 平成18(あ)2151 / 裁判年月日: 平成22年9月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】無差別に深夜の住宅街で連続放火を行い、未必的な殺意に基づき4名を死亡させた事案において、動機に酌むべき点がないこと、放火の危険性と結果の重大性、地域社会に与えた不安等を考慮すれば、死刑の科刑は免れない。 第1 事案の概要:被告人は、経済的苦境等のうっぷんを晴らすため、放火のスリルと快感を求めて深夜…
事件番号: 平成16(あ)727 / 裁判年月日: 平成19年3月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の刑事責任は極めて重大であり、死刑に処した原判決の維持を是認せざるを得ない。 第1 事案の概要:被告人はビル3階にある営業所にガソリンを用意して侵入し、店長らに通告した上で床に撒いて放火した。その結果、店舗を全焼させるとともに、店内にいた5名を死亡させ、他数名に重傷を負わせた。動機は理不尽な…
事件番号: 平成26(あ)1655 / 裁判年月日: 平成28年6月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】死刑制度は憲法31条および36条に違反しない。また、短期間に身勝手な動機から3名を殺害し、放火を伴う残虐な犯行を重ねた場合、未必の殺意や反省等の事情を考慮しても死刑の科刑は免れない。 第1 事案の概要:被告人は、交際相手Aを連れ戻す目的で山形の実家に放火し、Aの両親2名を焼死させた(山形事件)。そ…