死刑の量刑が維持された事例(大阪パチンコ店放火殺人事件)
刑法11条,刑法108条,刑法199条,刑訴法411条2号
判旨
死刑制度およびその執行方法は憲法31条、36条に違反しない。また、精神障害(妄想)が犯行の動機形成に介在していても、それが限定的であり、犯行自体が一貫性のある合目的的な行動である場合には、死刑の選択は許容される。
問題の所在(論点)
死刑制度および執行方法の合憲性。および、精神障害が動機形成に影響を与えている事案において、死刑を選択することが量刑不当(刑訴法411条2号)とならないか。
規範
死刑の選択にあたっては、犯行の罪質、動機、態様、結果の重大性、遺族の被害感情、社会的影響、犯人の年齢、前科、犯行後の情状を総合的に考慮し、その責任が極めて重大であって、罪刑の均衡、一般予防の観点からもやむを得ない場合に認められる(永山基準参照)。精神障害が存する場合、その症状が犯行に及ぼした影響の程度(直接的か間接的か)および、行動の合目的性・一貫性の有無により刑事責任の程度を判断する。
重要事実
被告人は精神障害による妄想(嫌がらせを受けている等)を抱き、世間への仕返しとしてパチンコ店への放火・無差別殺人を計画。ガソリンを準備し、日曜日の混雑する店内に撒いて点火し、5名を殺害、10名に重軽傷を負わせた。被告人は就職活動等の現実的な行動も継続しており、犯行前後は一貫して合目的的に行動していた。一方で、翌日に自首し、重い前科はなかった。
あてはめ
まず、死刑制度の合憲性は判例上確立している。次に、量刑について検討するに、犯行態様は計画的かつ無差別で極めて残酷である。動機に妄想が介在するが、それは一因にすぎず、直面する現状への不満が主な動因である。また、準備から実行に至るまで一貫した合目的的行動が見られ、精神症状の影響は「間接的」で限定的といえる。5名死亡という結果は極めて重大であり、自首や前科がない等の情状を考慮しても、刑事責任は極めて重大であると評価される。
事件番号: 平成25(あ)729 / 裁判年月日: 平成27年5月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】責任能力の判断において、精神障害の有無等の専門家意見は尊重すべきだが、鑑定が犯行に特有な事情(被告人の性格や確執の経緯等)への考察を欠く場合は「採用し得ない合理的な事情」があるといえる。本件では妄想性障害の影響を認めつつも、犯行の合目的性や現実的動機に基づき、完全責任能力を肯定した原判断を維持した…
結論
被告人の刑事責任は極めて重大であり、死刑に処した一審判決を維持した原判決は、当裁判所もこれを是認せざるを得ない(上告棄却)。
実務上の射程
死刑事件における「精神障害と責任能力・量刑」の関係を論じる際、妄想等の症状があっても行動の合目的性や現実的動機の有無により、死刑回避の決定的理由にはならないことを示す。また、死刑の合憲性に関する定型文としても利用可能。
事件番号: 平成28(あ)1508 / 裁判年月日: 令和元年7月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】妄想が動機の形成過程に影響していたとしても、自らの価値観に基づき犯行を選択・実行し、その影響が限定的であるならば、完全責任能力を認めた上で、死刑判決を維持することは正当である。 第1 事案の概要:被告人は、約10年間にわたり近隣住民から嫌がらせを受けているとの妄想を抱き、報復として一晩のうちに近隣…
事件番号: 平成16(あ)727 / 裁判年月日: 平成19年3月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の刑事責任は極めて重大であり、死刑に処した原判決の維持を是認せざるを得ない。 第1 事案の概要:被告人はビル3階にある営業所にガソリンを用意して侵入し、店長らに通告した上で床に撒いて放火した。その結果、店舗を全焼させるとともに、店内にいた5名を死亡させ、他数名に重傷を負わせた。動機は理不尽な…
事件番号: 平成26(あ)1655 / 裁判年月日: 平成28年6月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】死刑制度は憲法31条および36条に違反しない。また、短期間に身勝手な動機から3名を殺害し、放火を伴う残虐な犯行を重ねた場合、未必の殺意や反省等の事情を考慮しても死刑の科刑は免れない。 第1 事案の概要:被告人は、交際相手Aを連れ戻す目的で山形の実家に放火し、Aの両親2名を焼死させた(山形事件)。そ…
事件番号: 平成18(あ)2151 / 裁判年月日: 平成22年9月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】無差別に深夜の住宅街で連続放火を行い、未必的な殺意に基づき4名を死亡させた事案において、動機に酌むべき点がないこと、放火の危険性と結果の重大性、地域社会に与えた不安等を考慮すれば、死刑の科刑は免れない。 第1 事案の概要:被告人は、経済的苦境等のうっぷんを晴らすため、放火のスリルと快感を求めて深夜…