民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは,相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人が,当該死亡した者からの相続により,当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を,自己が承継した事実を知った時をいう。
民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」の意義
民法916条
判旨
再転相続における相続放棄の熟慮期間(民法916条)の起算点は、再転相続人が、自己のために前相続が開始したことを知ったのみでは足りず、前相続人から相続人としての地位を自己が承継した事実を知った時から起算される。
問題の所在(論点)
民法916条の再転相続における熟慮期間の起算点について、再転相続人が「自己のために(直接の被相続人からの)相続の開始があったことを知った時」と、「再転相続の対象となる相続(第一の相続)の地位を承継した事実を知った時」のいずれを指すかが問題となる。
規範
民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、相続の承認又は放棄をしないで死亡した者(乙)の相続人(丙)が、当該死亡した者(乙)からの相続により、当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続(甲からの相続)における相続人としての地位を、自己が承継した事実を知った時をいう。
重要事実
Aが死亡し、その弟Bが相続人となったが、Bは自己が相続人になったことを知らずに、承認も放棄もせず死亡した。Bの相続人である被上告人(丙)は、Bの死亡時にBからの相続開始を知ったが、BがAの相続人であった事実は知らなかった。その後、債権者である上告人から承継執行文の送達を受けたことで、初めてBがAの相続人であり、自己がその地位を承継したことを知った。被上告人はその送達から3ヶ月以内にAの相続についての放棄を申述した。
事件番号: 平成2(オ)295 / 裁判年月日: 平成6年5月31日 / 結論: 棄却
条件の成就によって利益を受ける当事者が故意に条件を成就させたときは、民法一三〇条の類推適用により、相手方は条件が成就していないものとみなすことができる。
あてはめ
熟慮期間は、相続人が承継の可否を判断するために財産状況を調査・熟慮する期間である。相続人は自己が相続人となった事実を知らなければ選択の機会を持ち得ない。本件では、被上告人がBの死亡を知った段階では、Aの相続人としての地位を承継したことを認識しておらず、Aの財産を調査して放棄等の選択をする機会が保障されていたとはいえない。したがって、承継執行文の送達により当該地位の承継を知った時が起算点となり、そこから3ヶ月以内になされた本件放棄は有効である。
結論
被上告人による本件相続放棄は熟慮期間内にされたものとして有効であり、執行文付与に対する異議は認められる。
実務上の射程
本判決は、再転相続人の認識を重視し、第一の相続の存在を知らない再転相続人を保護するものである。答案上は、916条の「自己のために相続の開始があったことを知った時」の解釈として、915条1項の原則(相続開始+自己の相続人該当性の認識)を再転相続の構造に即して具体化したものとして論じるべきである。
事件番号: 昭和50(オ)211 / 裁判年月日: 昭和51年7月1日 / 結論: 棄却
相続人が数人いる場合には、民法九一五条一項に定める三か月の期間は、相続人がそれぞれ自己のために相続の開始があつたことを知つた時から各別に進行するものと解するのが相当である。