宅配便で現金を送付させてだまし取る特殊詐欺において,被告人が自宅に配達される荷物を依頼を受けて名宛人になりすまして受け取り,直ちに回収役に渡す仕事を複数回繰り返して多額の報酬を受領していること,被告人は荷物の中身が詐欺の被害品である可能性を認識しており,現金とは思わなかったなどと述べるのみで詐欺の可能性があるとの認識が排除されたことをうかがわせる事情は見当たらないことなどの本件事実関係(判文参照)の下では,被告人には,詐欺の故意に欠けるところはなく,共犯者らとの共謀も認められる。
詐欺の被害者が送付した荷物を依頼を受けて名宛人になりすまして自宅で受け取るなどした者に詐欺罪の故意及び共謀があるとされた事例
刑法60条,刑法246条1項
判旨
特殊詐欺の受け取り役(受取型)について、他人になりすまして荷物を受領し直ちに回収役に渡す等の不自然な客観的事実や捜査段階の自白がある場合、詐欺の未必的故意及び共謀が認められる。
問題の所在(論点)
特殊詐欺におけるいわゆる「受け子」の事案において、客観的な受領状況や捜査段階の自白がある場合に、詐欺の故意(未必的故意)及び共謀を認めることができるか。
規範
特殊詐欺の故意(未必的故意を含む)の有無は、被告人が置かれた状況や具体的言動、仕事の内容・報酬等の客観的事実から、自己の行為が詐欺に当たる可能性を認識していたかによって判断される。他人の氏名を用い、中身を秘匿したまま荷物を受け渡す不自然な受領形態を反復し、相応の報酬を得ている事実は、詐欺の可能性の認識を強く推認させる要素となる。
重要事実
被告人は暴力団組員の知人から、自宅で荷物を受け取りバイク便に渡すだけの仕事で荷物1個につき5000円〜1万円の報酬を得る約束をした。指示に従い、他人名義の免許証写しやプリペイド携帯を渡され、偽造された私書箱契約書に基づき名宛人になりすまして計6個の荷物を受領し、直ちに回収役に渡していた。被告人は中身を「金地金や他人名義通帳等の可能性」があると考え、詐欺の被害品である可能性も認識していた旨の供述をしていた。
事件番号: 平成30(あ)1224 / 裁判年月日: 令和元年9月27日 / 結論: 破棄自判
宅配便で現金を送付させてだまし取る特殊詐欺において,被告人が依頼を受け,他人の郵便受けの投入口から不在連絡票を取り出すという著しく不自然な方法を用いて,送付先のマンションに設置された宅配ボックスから荷物を取り出した上,これを回収役に引き渡すなどしていること,他に詐欺の可能性の認識を排除するような事情も見当たらないことな…
あてはめ
被告人は、知人から犯罪への関与を疑わせる勧誘を受け、他人になりすまして荷物を受領し直ちに回収役に渡すという極めて不自然な形態の仕事を複数回繰り返し、多額の報酬を得ていた。これら外形的事実に加え、捜査段階で「詐欺の被害品の可能性を考えていた」旨の信用できる自白がある。本件のような不自然な受領・転送形態は、それ自体で詐欺等の犯罪を十分に想起させるものであり、詐欺の可能性の認識を排除する事情も見当たらない。したがって、自己の行為が詐欺に当たるかもしれないと認識しながら荷物を受領したといえ、未必的な故意及び共謀が認められる。
結論
被告人には詐欺の故意が認められ、共同正犯としての刑責を負う。第一審の有罪判決を破棄して無罪とした原判決には重大な事実誤認があり、破棄を免れない。
実務上の射程
特殊詐欺の受け子(特に受取型)の故意認定に関するリーディングケースである。指示役との明示的な共謀がなくても、客観的な仕事の「怪しさ」や供述の信用性から未必的故意を認定できるとする実務上の強力な指針となる。答案上は、詐欺罪の故意が問題となる場面で、客観的な不自然さと認識の程度(未必的故意)を結びつける際の規範として用いる。
事件番号: 平成29(あ)44 / 裁判年月日: 平成30年12月11日 / 結論: 破棄自判
マンションの空室に宅配便で現金を送付させてだまし取る特殊詐欺において,被告人が指示を受けてマンションの空室に赴き,そこに配達される荷物を名宛人になりすまして受け取り,回収役に渡すなどしていること,被告人は同様の受領行為を多数回繰り返して報酬等を受け取っており,犯罪行為に加担していると認識していたこと,詐欺の可能性がある…