マンションの空室に宅配便で現金を送付させてだまし取る特殊詐欺において,被告人が指示を受けてマンションの空室に赴き,そこに配達される荷物を名宛人になりすまして受け取り,回収役に渡すなどしていること,被告人は同様の受領行為を多数回繰り返して報酬等を受け取っており,犯罪行為に加担していると認識していたこと,詐欺の可能性があるとの認識が排除されたことをうかがわせる事情は見当たらないことなどの本件事実関係(判文参照)の下では,被告人には,詐欺の故意に欠けるところはなく,共犯者らとの共謀も認められる。
指示を受けてマンションの空室に赴き詐欺の被害者が送付した荷物を名宛人になりすまして受け取るなどした者に詐欺罪の故意及び共謀があるとされた事例
刑法60条,刑法246条1項
判旨
いわゆる「受け子」による詐欺の故意の認定について、多数回にわたりマンションの空室で他人になりすまして荷物を受け取り報酬を得る等の客観的事実があれば、手口の周知状況に関わらず詐欺の未必の故意を推認できる。
問題の所在(論点)
マンションの空室で他人になりすまして荷物を受け取る行為を反復していた場合において、当該手口の社会的周知状況が不明であっても、詐欺の故意(未必の故意)を推認することができるか。
規範
詐欺罪(刑法246条)の故意(未必の故意を含む)を認定するにあたっては、被告人の主観的な弁解のみならず、被告人が加担した行為の客観的態様、反復性、報酬の性質等の間接事実から、自己の行為が詐欺に該当する可能性を認識していたかを判断すべきである。特に、特殊な荷物受領行為を反復している場合、その異常性自体から犯罪(詐欺)の可能性を想起し得ると解される。
重要事実
被告人は、元同僚からの依頼で、1ヶ月間に約20回、各地のマンション空室に赴き、部屋の住人を装って他人名義の宅配便を受け取り、回収役に渡す「仕事」に従事した。被告人は、逮捕の可能性があることや見張り役の存在を認識しており、1回約1万円の報酬を得ていた。被告人は「違法な仕事とは思ったが、中身は拳銃や薬物だと思っていた」と弁解し、原審は「空室利用型詐欺の手口が周知されていたとはいえない」として無罪とした。
事件番号: 平成30(あ)1224 / 裁判年月日: 令和元年9月27日 / 結論: 破棄自判
宅配便で現金を送付させてだまし取る特殊詐欺において,被告人が依頼を受け,他人の郵便受けの投入口から不在連絡票を取り出すという著しく不自然な方法を用いて,送付先のマンションに設置された宅配ボックスから荷物を取り出した上,これを回収役に引き渡すなどしていること,他に詐欺の可能性の認識を排除するような事情も見当たらないことな…
あてはめ
まず、被告人は異なる場所で他人になりすまして受領する行為を多数回繰り返し、1回1万円という高額な報酬を得ており、自ら犯罪加担を認識していた。このような行為態様の異常性自体から、荷物が詐欺等の犯罪に基づくものであることは十分に想起可能である。次に、原審は手口の周知性を重視するが、他人になりすまして財物を受け取るという核心的役割は共通しており、新しい手口であっても詐欺の可能性を認識するのに高度な抽象能力は不要である。また、中身が薬物等であると誤信していたとの弁解も、詐欺の可能性を排除する事情にはならず、未必の故意を妨げない。したがって、被告人には自己の行為が詐欺に当たる可能性の認識があったといえる。
結論
被告人には詐欺の故意及び共謀が認められる。原判決には故意の推認過程に不合理な点があり、事実誤認があるため、破棄を免れない。
実務上の射程
特殊詐欺の「受け子」において、客観的な不審状況が揃っていれば、具体的な手口の知識や周知状況を問わず、未必の故意を肯定する実務上の指針となった。
事件番号: 平成28(あ)1808 / 裁判年月日: 平成30年12月14日 / 結論: 破棄自判
宅配便で現金を送付させてだまし取る特殊詐欺において,被告人が自宅に配達される荷物を依頼を受けて名宛人になりすまして受け取り,直ちに回収役に渡す仕事を複数回繰り返して多額の報酬を受領していること,被告人は荷物の中身が詐欺の被害品である可能性を認識しており,現金とは思わなかったなどと述べるのみで詐欺の可能性があるとの認識が…
事件番号: 平成16(あ)761 / 裁判年月日: 平成16年11月30日 / 結論: 棄却
1 郵便送達報告書の受領者の押印又は署名欄に他人である受送達者本人の氏名を冒書する行為は,同人名義の受領書を偽造したものとして,有印私文書偽造罪を構成する。 2 支払督促の債務者を装い郵便配達員を欺いて支払督促正本を受領することにより,送達が適式にされたものとして支払督促の効力を生じさせ,債務者から督促異議申立ての機会…