現金を被害者宅に移動させた上で,警察官を装った被告人に現金を交付させる計画の一環として述べられた嘘について,その嘘の内容が,現金を交付するか否かを被害者が判断する前提となるよう予定された事項に係る重要なものであり,被害者に現金の交付を求める行為に直接つながる嘘が含まれ,被害者にその嘘を真実と誤信させることが,被害者において被告人の求めに応じて即座に現金を交付してしまう危険性を著しく高めるといえるなどの本件事実関係(判文参照)の下においては,当該嘘を一連のものとして被害者に述べた段階で,被害者に現金の交付を求める文言を述べていないとしても,詐欺罪の実行の着手があったと認められる。 (補足意見がある。)
詐欺罪につき実行の着手があるとされた事例
刑法43条,刑法246条,刑法250条
判旨
特殊詐欺において、被害者に現金の交付を求める文言を直接述べていない段階であっても、犯行計画上、交付の判断に資する重要な事項について嘘を述べ、交付の危険性を著しく高めたといえる場合には、詐欺罪の実行の着手が認められる。
問題の所在(論点)
被害者に対し、直接「現金を渡してほしい」等の交付を求める文言を述べていない段階において、詐欺罪の実行の着手(刑法43条、246条1項)が認められるか。
規範
詐欺罪の実行の着手は、財物の交付を求める行為(実行行為)そのものだけでなく、その行為に密接な行為であって、被害を生じさせる客観的な危険性が認められる行為に着手することによっても認められる。具体的には、犯行計画上、被害者が現金を交付するか否かを判断する前提となる重要な事項につき、段階を踏んで嘘を重ね、現金を交付してしまう危険性を著しく高める行為が行われれば、詐欺未遂罪が成立する。
重要事実
被告人は共犯者らと共謀し、警察官を装って被害者から現金をだまし取ることを計画した。共犯者は被害者に対し「詐欺犯人を捕まえた」「預金を全部下ろした方がいい」「前日の被害金を取り戻すため協力してほしい」との嘘(1回目の電話)を述べ、その約1時間半後、預金を下ろした被害者に対し「2時前には到着するよう態勢を整える」と警察官の訪問を予告する嘘(2回目の電話)を述べた。被告人は、受取役として刑事になりすまし被害者宅へ向かったが、到着前に職務質問を受け逮捕された。
あてはめ
1回目の電話は、預金の現金化や警察への協力という、交付の判断の前提となる重要事項に係る嘘である。2回目の電話は、間もなく警察官が訪問することを予告するもので、交付を求める行為に直接つながる内容を含む。既に前日に詐欺被害に遭っていた被害者に対し、これら一連の嘘を信じさせることは、その後に訪問する被告人の求めに応じて即座に現金を交付してしまう危険性を著しく高めるものといえる。したがって、交付を求める文言を述べる前であっても、これら一連の嘘を述べた段階で、詐欺の実行行為に密接な行為がなされたと評価できる。
結論
本件のような、段階を踏んで嘘を重ねる犯行計画の下では、一連の嘘を述べた段階で詐欺罪の実行の着手が認められ、詐欺未遂罪が成立する。
実務上の射程
特殊詐欺(いわゆる「だまされたふり作戦」を含む)の実行の着手時期を検討する際のリーディングケースである。判例は「密接性」と「危険性の著しい高まり」を重視しており、答案では、嘘の内容が交付判断にとって重要か、及び犯行計画における時間的・場所的近接性を具体的事実から抽出して論述する必要がある。
事件番号: 令和2(あ)1087 / 裁判年月日: 令和4年2月14日 / 結論: 棄却
被害者に電話をかけキャッシュカードを封筒に入れて保管することが必要でありこれから訪れる者が作業を行う旨信じさせ,被害者宅を訪れる被告人が封筒に割り印をするための印鑑を被害者に取りに行かせた隙にキャッシュカード入りの封筒と偽封筒とをすり替えてキャッシュカードを窃取するという犯行計画に基づいて,すり替えの隙を生じさせる前提…
事件番号: 平成30(あ)1224 / 裁判年月日: 令和元年9月27日 / 結論: 破棄自判
宅配便で現金を送付させてだまし取る特殊詐欺において,被告人が依頼を受け,他人の郵便受けの投入口から不在連絡票を取り出すという著しく不自然な方法を用いて,送付先のマンションに設置された宅配ボックスから荷物を取り出した上,これを回収役に引き渡すなどしていること,他に詐欺の可能性の認識を排除するような事情も見当たらないことな…