共同相続人間においてされた無償による相続分の譲渡は,譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き,上記譲渡をした者の相続において,民法903条1項に規定する「贈与」に当たる。
共同相続人間においてされた無償による相続分の譲渡と民法903条1項に規定する「贈与」
民法903条1項,民法905条,民法1044条
判旨
共同相続人間でされた無償の相続分譲渡は、当該相続分に財産的価値がないと認められる特段の事情がない限り、譲渡人の相続において民法903条1項の「贈与」に当たる。
問題の所在(論点)
共同相続人間で無償で行われた相続分の譲渡が、譲渡人の相続において民法903条1項の「贈与(特別受益)」として遺留分算定の基礎となる財産(同法1044条、903条1項)に含まれるか。
規範
共同相続人間でされた無償の相続分譲渡は、譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き、民法903条1項に規定する「贈与」に当たる。遺産分割の遡及効(民法909条本文)は、この解釈を妨げない。
重要事実
亡Aの共同相続人である上告人、被上告人、C、Dの間で、亡Bの遺産分割調停が行われた。その際、AとDは被上告人に対し各自の相続分を無償で譲渡し、手続から脱退した。その後、Aが死亡し、被上告人に対し全財産を相続させる旨の遺言を残した。上告人は、Aによる本件相続分譲渡は特別受益としての「贈与」にあたり、遺留分算定の基礎となる財産に含まれると主張して、遺留分減殺請求権を行使した。
あてはめ
相続分の譲渡により、譲渡人の割合的な持分が譲受人に移転し、譲受人は合算された相続分に基づき遺産分割による分配を求めることができる。これは譲渡人から譲受人に対し経済的利益を合意によって移転させるものといえる。本件においても、Aから被上告人への相続分譲渡により、被上告人はAの持分を含めた有利な立場で遺産分割調停を成立させ、現実に不動産等を取得している。当該相続分に財産的価値がないといえる事情がない限り、経済的利益の移転としての実態を有する。
結論
無償の相続分譲渡は、財産的価値がないといえない限り民法903条1項の「贈与」に当たる。原審は贈与に当たらないとしたが、当該価値の有無を審理すべきであり、判断には法令違反があるため破棄差戻しを免れない。
実務上の射程
特別受益の対象となる「贈与」の範囲を画定した重要判例である。遺産分割前の相続分譲渡であっても、実質的な経済的利益の移転に着目し、遺留分権利者間の公平を図る立場をとる。答案上は、相続分譲渡がなされた事案で遺留分や特別受益が問題となった際、この規範を明示した上で、積極財産・消極財産の状況から財産的価値の有無を検討する流れで用いる。
事件番号: 令和6(受)2 / 裁判年月日: 令和7年7月10日 / 結論: 破棄自判
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