相続人に対する遺贈が遺留分減殺の対象となる場合においては、右遺贈の目的の価額のうち受遺者の遺留分額を超える部分のみが、民法一〇三四条にいう目的の価額に当たる。
相続人に対する遺贈と民法一〇三四条にいう目的の価額
民法1034条
判旨
相続人に対する遺贈(相続させる旨の遺言を含む)が遺留分減殺の対象となる場合、減殺の対象となる「目的の価額」は、遺贈の価額のうち受遺者の遺留分額を超える部分に限られる。
問題の所在(論点)
相続人に対する遺贈(または相続させる旨の遺言)が遺留分減殺請求の対象となった場合、受遺者である相続人自身の遺留分に相当する額についても、減殺の対象に含まれるか(民法1034条の「目的の価額」の算定方法)。
規範
相続人に対する遺贈が遺留分減殺の対象となる場合、民法1034条(改正前)にいう「目的の価額」は、当該遺贈の目的の価額のうち受遺者の遺留分額を超える部分のみを指す。この理は、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言による相続が減殺対象となる場合にも同様に適用される。
重要事実
本件は、相続人の一人に対してなされた特定の遺産を「相続させる」旨の遺言(実質的に遺贈と同視されるもの)について、他の共同相続人が遺留分減殺請求(現:遺留分侵害額請求)を行った事案である。受遺者(受任者)自身も相続人であり、遺留分を有していたことから、当該遺贈の全額が減殺の対象となるか、あるいは受遺者自身の遺留分を超える部分のみが対象となるかが争われた。
あてはめ
遺留分制度の趣旨は、相続人の生活保障等を図るため、被相続人の財産処分の自由を合理的な範囲で制限することにある。相続人に対する遺贈の全額を減殺対象と認めると、減殺を受けた受遺者自身の遺留分までもが侵害される結果となり、遺留分制度の趣旨に反することになる。したがって、受遺者が相続人である場合には、その者が確保すべき遺留分相当額をあらかじめ控除した残額(超過部分)のみを、他の遺留分権利者による減殺の客体とすべきである。
結論
相続人に対する遺贈等のうち、受遺者の遺留分額を超える部分のみが減殺の対象となる。本件上告は棄却された。
実務上の射程
平成30年改正後の遺留分侵害額請求権の下でも、受遺者が相続人である場合の負担額算定において、自己の遺留分を控除する考え方は維持されている(改正後民法1047条1項2号参照)。答案上は、相続人に対する遺贈が混在する場合の減殺(侵害額負担)の順序や範囲を確定する際の基礎的な判断枠組みとして活用する。
事件番号: 令和6(受)2 / 裁判年月日: 令和7年7月10日 / 結論: 破棄自判
遺留分権利者から遺留分減殺に基づく土地の持分の現物返還請求を受けた受遺者が民法(平成30年法律第72号による改正前のもの)1041条1項の規定により上記持分の価額を弁償する旨の意思表示をした場合において、当該遺留分権利者が価額弁償を請求する権利を行使する旨の意思表示をしたことはうかがわれないにもかかわらず、受遺者に対し…
事件番号: 平成9(オ)2117 / 裁判年月日: 平成10年3月24日 / 結論: 破棄差戻
民法九〇三条一項の定める相続人に対する贈与は、右贈与が相続開始よりも相当以前にされたものであって、その後の時の経過に伴う社会経済事情や相続人など関係人の個人的事情の変化をも考慮するとき、減殺請求を認めることが右相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り、同法一〇三〇条の定める要件を満たさないものであっても、遺留分減殺の…