民法九〇三条一項の定める相続人に対する贈与は、右贈与が相続開始よりも相当以前にされたものであって、その後の時の経過に伴う社会経済事情や相続人など関係人の個人的事情の変化をも考慮するとき、減殺請求を認めることが右相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り、同法一〇三〇条の定める要件を満たさないものであっても、遺留分減殺の対象となる。
民法九〇三条一項の定める相続人に対する贈与と遺留分減殺の対象
民法903条1項,民法1030条,民法1031条,民法1044条
判旨
相続人に対する贈与(特別受益)は、民法1030条の要件を欠く場合であっても、特段の事情のない限り、相続開始の時期にかかわらず遺留分減殺の対象となる。
問題の所在(論点)
共同相続人の一人に対してなされた生前贈与(特別受益)について、民法1030条の要件(1年前の贈与、または加害の認識)を満たさない場合であっても、遺留分減殺の対象となるか。
規範
民法903条1項の定める相続人に対する贈与は、相続開始よりも相当以前にされたものであって、その後の時の経過に伴う社会経済事情や関係人の個人的事情の変化を考慮して減殺請求を認めることが当該相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り、民法1030条の定める要件(相続開始前1年間の贈与、または当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってした贈与)を満たさないものであっても、遺留分減殺の対象となる。
重要事実
被相続人Dは、昭和53年から54年にかけて、相続人である子B1に対し土地(4の土地及び2、5の土地の持分)を贈与した。Dは昭和62年に死亡し、相続人である妻A1、子A2(上告人ら)が、B1ら(被上告人ら)に対し遺留分減殺請求権を行使した。原審は、当該贈与が相続開始の1年以上前であり、かつ損害を加える認識もなかったとして、1030条の要件を欠くことを理由に減殺の対象外と判断した。
あてはめ
民法903条1項の相続人に対する贈与は、すべて遺留分算定の基礎となる財産に含まれる(同法1044条、903条)。1030条の要件を欠く贈与が減殺対象外となれば、遺留分を侵害された相続人が遺留分相当額を確保できず、遺留分制度の趣旨を没却することになる。本件B1への贈与は特別受益に当たると推定されるところ、原審は、贈与から相当期間が経過し減殺を認めることがB1に酷であるといった「特段の事情」の有無を検討せずに、直ちに減殺対象外とした点で法解釈を誤っている。
結論
相続人に対する贈与は、民法1030条の要件を満たさないものであっても、原則として遺留分減殺の対象となる。特段の事情の有無を審理させるため、原判決を破棄し差し戻す。
実務上の射程
共同相続人に対する特別受益の贈与については、1年前という期間制限が適用されないことを明確にした極めて重要な判例。答案上は、遺留分算定の基礎財産(1044条、903条)を確定する際、相続人に対する贈与であれば「特段の事情」がない限り、時期に関係なく減殺対象に含めるべきとする論証で用いる。
事件番号: 平成8(オ)2292 / 裁判年月日: 平成11年6月24日 / 結論: 棄却
遺留分減殺の対象としての要件を満たす贈与を受けた者が、右贈与に基づいて目的物の占有を取得し、民法一六二条所定の期間、平穏かつ公然にこれを継続し、取得時効を援用したとしても、右贈与に対する減殺請求による遺留分権利者への右目的物についての権利の帰属は妨げられない。
事件番号: 昭和53(オ)190 / 裁判年月日: 昭和57年3月4日 / 結論: 棄却
遺留分減殺請求権の行使の効果として生じた目的物の返還請求権等は、民法一〇四二条所定の消滅時効に服しない。
事件番号: 平成1(オ)297 / 裁判年月日: 平成5年9月21日 / 結論: 棄却
不法行為により死亡した者の得べかりし普通恩給及び国民年金(老齢年金)は、その逸失利益として相続人が相続によりこれを取得し、加害者に対してその賠償を請求することができる。