遺留分減殺請求権の行使の効果として生じた目的物の返還請求権等は、民法一〇四二条所定の消滅時効に服しない。
遺留分減殺請求権の行使の効果として生じた目的物の返還請求権等と民法一〇四二条所定の消滅時効
民法1042条
判旨
遺留分減殺請求権の行使によって生じる目的物返還請求権等は、民法1042条(旧法)所定の短期消滅時効の対象にはならず、形成権としての減殺請求権そのもののみが同条の適用を受ける。
問題の所在(論点)
遺留分減殺請求権の行使によって発生した物件返還請求権や価額弁償請求権といった「行使の効果としての請求権」についても、民法1042条(旧法)所定の短期消滅時効が適用されるか。
規範
民法1031条(旧法)所定の遺留分減殺請求権は形成権であり、その行使により贈与又は遺贈は遺留分を侵害する限度で失効し、権利は当然に遺留分権利者に帰属する。したがって、同法1042条(旧法)にいう「減殺の請求権」とは形成権としての減殺請求権そのものを指し、権利行使の効果として生じた目的物返還請求権等は同条の特別消滅時効には服さない。
重要事実
被上告人(遺留分権利者)が上告人(受遺者)に対し、遺留分減殺請求権を行使した。その後、減殺請求の効果として生じた法律関係に基づき、目的物の返還に代わる価額弁償の請求を求めたところ、上告側が当該請求権についても民法1042条(旧法)の短期消滅時効(遺留分権利者が相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年)が適用されるべきであると主張して争った。
事件番号: 昭和40(オ)1084 / 裁判年月日: 昭和41年7月14日 / 結論: 棄却
遺留分権利者の減殺請求権は形成権であると解すべきである。
あてはめ
遺留分減殺請求権は形成権であるため、一度行使されれば、その時点で目的物の権利は当然に遺留分権利者に復帰する。このように、行使によって既に具体化された目的物返還請求権等は、形成権としての減殺請求権とは性質を異にするものである。そのため、権利行使の期間を厳格に定めた同法1042条(旧法)の趣旨を、行使後の法律関係にまで及ぼして同条の消滅時効を適用することは、条文の解釈として相当ではない。
結論
遺留分減殺請求の効果として生じた価額弁償請求権等に民法1042条(旧法)は適用されない。したがって、形成権としての減殺請求が期間内になされている以上、本件請求は認められる。
実務上の射程
遺留分侵害額請求権(現行法)の下でも、期間制限の対象が「請求権の行使」そのものである点において、行使後の債権的請求権の消滅時効(一般原則)と区別する際の基礎となる判例である。答案上では、期間制限の対象を明確に分ける論理として活用できる。
事件番号: 平成5(オ)342 / 裁判年月日: 平成9年7月17日 / 結論: その他
減殺請求をした遺留分権利者が遺贈の目的である不動産の持分移転登記手続を求める訴訟において、受遺者が、事実審口頭弁論終結前に、裁判所が定めた価額により民法一〇四一条の規定による価額の弁償をする旨の意思表示をした場合には、裁判所は、右訴訟の事実審口頭弁論終結時を算定の基準時として弁償すべき額を定めた上、受遺者が右の額を支払…
事件番号: 昭和50(オ)920 / 裁判年月日: 昭和51年8月30日 / 結論: 棄却
遺留分権利者が受贈者又は受遺者に対し民法一〇四一条一項の価額弁償を請求する訴訟における贈与又は遺贈の目的物の価額算定の基準時は、右訴訟の事実審口頭弁論終結の時である。
事件番号: 昭和33(オ)502 / 裁判年月日: 昭和35年7月19日 / 結論: 棄却
一 受贈者に対し減殺請求をしたときは、その後に受贈者から贈与の目的物を譲り受けた者に対してさらに減殺の請求をすることはできない。 二 受贈者から贈与の目的物を譲り受けた者に対する減殺請求権の一年の消滅時効の期間は、遺留分権利者が相続の開始と贈与のあつたことを知つた時から起算すべきである。