減殺請求をした遺留分権利者が遺贈の目的である不動産の持分移転登記手続を求める訴訟において、受遺者が、事実審口頭弁論終結前に、裁判所が定めた価額により民法一〇四一条の規定による価額の弁償をする旨の意思表示をした場合には、裁判所は、右訴訟の事実審口頭弁論終結時を算定の基準時として弁償すべき額を定めた上、受遺者が右の額を支払わなかったことを条件として、遺留分権利者の請求を認容すべきである。
遺留分権利者からの不動産の持分移転登記手続請求訴訟において受遺者が裁判所が定めた価額による価額弁償の意思表示をした場合における判決主文
民法1041条1項,民事執行法173条,民訴法191条1項
判旨
遺留分減殺請求に伴う目的物返還訴訟において、受遺者が価額弁償(旧民法1041条1項)の意思表示をした場合、裁判所は、事実審口頭弁論終結時を基準とした弁償額の支払を停止条件として、目的物の返還を命じるべきである。
問題の所在(論点)
遺留分減殺請求に対し、受遺者が旧民法1041条(現行1044条、1041条関連)に基づき価額弁償の意思表示をした場合、判決主文における条件関係および価額算定の基準時はどのように構成されるべきか。
規範
遺留分権利者が遺贈の目的物の返還を求める訴訟において、受遺者が旧民法1041条に基づき現物返還に代えて価額弁償をする旨の意思表示をした場合、裁判所は以下の枠組みで判断する。まず、事実審口頭弁論終結時を算定の基準時として弁償すべき額を定める。その上で、受遺者がその額を支払わなかったことを停止条件として、遺留分権利者の目的物返還請求を認容する判決を言い渡すべきである。
重要事実
被相続人Dは、被上告人に対し全財産を遺贈する旨の遺言を残し死亡した。Dの子である上告人らは、被上告人に対し遺留分減殺請求権を行使し、本件土地の持分各40分の1(遺留分)について移転登記を求めて提訴した。これに対し、受遺者である被上告人は、原審の口頭弁論期日において、裁判所が定めた価額により価額弁償をする旨の意思表示をした。原審は、移転登記義務を認めつつ、弁償金を支払えばその義務を免れるという趣旨の判決(引換給付に近い形式)を下したため、上告人らが不服を申し立てた。
事件番号: 昭和50(オ)920 / 裁判年月日: 昭和51年8月30日 / 結論: 棄却
遺留分権利者が受贈者又は受遺者に対し民法一〇四一条一項の価額弁償を請求する訴訟における贈与又は遺贈の目的物の価額算定の基準時は、右訴訟の事実審口頭弁論終結の時である。
あてはめ
本件において、被上告人(受遺者)は事実審口頭弁論期日に価額弁償の意思表示を適法に行っている。この場合、目的物の返還義務が消滅するか否かは弁償金の支払にかかっているため、判決は「支払を条件とする」形式をとるべきである。算定基準時については、現物返還義務が存続している以上、事実審口頭弁論終結時とすべきである。本件土地の同時点での価額は各241万4750円と確定されているため、この金額の不払を条件として、持分移転登記手続を命じるのが相当である。原審のように「支払えば義務を免れる」とする形式は、条件関係の解釈として不適切である。
結論
受遺者が弁償額を支払わなかったときは、各土地持分について遺留分減殺を原因とする所有権移転登記手続をせよとの判決を下すべきである。
実務上の射程
平成30年相続法改正により遺留分侵害額請求権(金銭債権化)が導入されたため、現行法下での現物返還を巡る争いとしての直接的な適用場面は限定的である。しかし、改正前民法が適用される事案や、特定の形成権行使に伴う条件付判決の主文構成、および価額算定基準時の一般論(原則として口頭弁論終結時)を確認する素材として、答案作成上の論理構成において参照価値がある。
事件番号: 昭和53(オ)190 / 裁判年月日: 昭和57年3月4日 / 結論: 棄却
遺留分減殺請求権の行使の効果として生じた目的物の返還請求権等は、民法一〇四二条所定の消滅時効に服しない。
事件番号: 平成19(受)1548 / 裁判年月日: 平成21年3月24日 / 結論: 棄却
相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言がされた場合には,遺言の趣旨等から相続債務については当該相続人にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り,相続人間においては当該相続人が相続債務もすべて承継したと解され,遺留分の侵害額の算定に当たり,遺留分権利者の法定相続分に応じた相…
事件番号: 平成5(オ)947 / 裁判年月日: 平成8年11月26日 / 結論: 破棄差戻
被相続人が相続開始時に債務を有していた場合における遺留分の侵害額は、被相続人が相続開始時に有していた財産の価額にその贈与した財産の価額を加え、その中から債務の全額を控除して遺留分算定の基礎となる財産額を確定し、それに法定の遺留分の割合を乗じるなどして算定した遺留分の額から遺留分権利者が相続によって得た財産の額を控除し、…
事件番号: 昭和41(オ)641 / 裁判年月日: 昭和41年10月20日 / 結論: 棄却
準備書面に記載した形成権行使の意思表示は当該準備書面を相手方に受領せしめた時に行使されたと認めることもできる。