被相続人が相続開始時に債務を有していた場合における遺留分の侵害額は、被相続人が相続開始時に有していた財産の価額にその贈与した財産の価額を加え、その中から債務の全額を控除して遺留分算定の基礎となる財産額を確定し、それに法定の遺留分の割合を乗じるなどして算定した遺留分の額から遺留分権利者が相続によって得た財産の額を控除し、同人が負担すべき相続債務の額を加算して算定する。
被相続人が相続開始時に債務を有していた場合における遺留分の侵害額の算定
民法1029条,民法1031条
判旨
遺留分侵害額の算定において、相続開始時の債務額は基礎財産から控除すべきであり、相続開始後に受遺者が債務を弁済したとしても、その算定方法は左右されない。包括遺贈に対する減殺請求により取得する権利の割合は、侵害額を相続財産の総額で除して算出される。
問題の所在(論点)
遺留分算定の基礎となる財産額の算定において、相続開始後の債務弁済や相殺の事実は、算定される持分割合に影響を及ぼすか。また、包括遺贈に対する減殺請求により取得する具体的な持分割合の算定方法は如何なるものか。
規範
1. 遺留分算定の基礎となる財産額は、相続開始時の財産価額に贈与価額を加え、債務全額を控除して算定する(民法1029条等)。 2. 遺留分の侵害額は、上記に基づき算定した遺留分額から、遺留分権利者が相続により得た財産額を控除し、負担すべき相続債務額を加算して算定する。 3. 包括遺贈に対し減殺請求権を行使した場合に取得する持分権の割合は、上記「侵害額」を「遺留分減殺の対象である全相続財産の相続開始時の価額の総和」で除して得た割合となる。
重要事実
1. 被相続人Dは、上告人に対し全財産を包括遺贈する旨の遺言を残し死亡した。 2. 遺留分権利者である被上告人らは、上告人に対し遺留分減殺請求権を行使した。 3. 相続財産には不動産のほか、相続債務も存在していた。 4. 上告人は減殺請求後に一部不動産を売却したほか、相続債務を単独で弁済した。原審は、上告人の弁済による求償権と被上告人らの損害賠償請求権が相殺されたことを理由に、相続債務を無視して持分を算定した。
事件番号: 平成19(受)1548 / 裁判年月日: 平成21年3月24日 / 結論: 棄却
相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言がされた場合には,遺言の趣旨等から相続債務については当該相続人にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り,相続人間においては当該相続人が相続債務もすべて承継したと解され,遺留分の侵害額の算定に当たり,遺留分権利者の法定相続分に応じた相…
あてはめ
1. 遺留分侵害額の算定は、相続開始時を基準とする法定の計算式(民法1029条等)によるべきであり、その後に受遺者(上告人)が債務を弁済した事実はこの計算過程に影響しない。 2. 原審は、上告人による債務弁済後の相殺を理由に相続債務を考慮せずに持分を算出した。しかし、債務を無視することは法の定める算定方式に反し、法令の解釈適用に誤りがある。 3. 本件では、適正に算出された侵害額を相続財産全体の価額で除した割合を特定すべきであり、債務の有無や範囲を確定せずに直ちに法定相続分に基づく割合を認めることはできない。
結論
相続債務は遺留分額を算定する上で無視できず、相続開始時の状況に基づき侵害額を確定すべきである。これを行わず持分割合を確定した原判決は破棄を免れない。
実務上の射程
平成30年改正前の遺留分減殺請求に関する判例であるが、現行法下の遺留分侵害額請求(金銭債権化)においても、基礎となる遺留分算定の計算順序(民法1043条、1046条)を確認する上で極めて重要。実務上、相続債務は「相続開始時」を基準に必ず基礎財産から控除しなければならない点に留意が必要である。
事件番号: 平成5(オ)342 / 裁判年月日: 平成9年7月17日 / 結論: その他
減殺請求をした遺留分権利者が遺贈の目的である不動産の持分移転登記手続を求める訴訟において、受遺者が、事実審口頭弁論終結前に、裁判所が定めた価額により民法一〇四一条の規定による価額の弁償をする旨の意思表示をした場合には、裁判所は、右訴訟の事実審口頭弁論終結時を算定の基準時として弁償すべき額を定めた上、受遺者が右の額を支払…
事件番号: 昭和53(オ)190 / 裁判年月日: 昭和57年3月4日 / 結論: 棄却
遺留分減殺請求権の行使の効果として生じた目的物の返還請求権等は、民法一〇四二条所定の消滅時効に服しない。
事件番号: 昭和50(オ)920 / 裁判年月日: 昭和51年8月30日 / 結論: 棄却
遺留分権利者が受贈者又は受遺者に対し民法一〇四一条一項の価額弁償を請求する訴訟における贈与又は遺贈の目的物の価額算定の基準時は、右訴訟の事実審口頭弁論終結の時である。