遺言者の財産全部の包括遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しない。
遺言者の財産全部の包括遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利の性質
民法898条,民法907条,民法964条,民法1031条
判旨
全財産の包括遺贈に対して遺留分減殺請求権が行使された場合、遺留分権利者に帰属する権利は遺産分割の対象となる相続財産には当たらない。したがって、権利者は受遺者に対し、共有持分権に基づき直接所有権移転登記等を請求できる。
問題の所在(論点)
全財産の包括遺贈に対して遺留分減殺請求権が行使された場合、減殺によって遺留分権利者に復帰した権利は「遺産分割の対象」となるか。それとも受遺者との個別的な共有関係を生じ、直ちに持分権行使の対象となるか。
規範
遺贈に対して遺留分減殺請求権が行使された場合、遺贈は遺留分を侵害する限度で失効し、その権利は当然に遺留分権利者に帰属する。このとき、全財産の包括遺贈であっても、実質的には特定遺贈と異ならず、減殺の効果は請求者と受遺者との間で個別的に生じるものである。したがって、減殺により遺留分権利者に帰属した権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しない。
重要事実
被相続人Dは、相続人である上告人(子)に対し、全財産を包括して遺贈する旨の遺言を残して死亡した。上告人は本件各不動産について単独所有権移転登記を経た。他の相続人である被上告人(子)は、上告人に対し遺留分減殺請求権を行使した。その後、上告人が本件不動産の一部を第三者に売却したため、被上告人は、残存不動産の持分(24分の1)の移転登記と、売却済不動産の持分相当額の損害賠償を求めて提訴した。
あてはめ
包括遺贈は財産を包括的に表示するのみで実質は特定遺贈と異ならない。また、民法が遺留分減殺の効果を請求者と受遺者等の個別的関係として規定していることに照らせば、本件で被上告人が取得した24分の1の持分権は、遺産分割の手続を経る必要のない独自の権利である。よって、被上告人は上告人に対し、共有持分権に基づく登記請求が可能であり、また上告人が無断で不動産を売却した行為は被上告人の持分権を侵害する不法行為を構成する。
結論
被上告人の請求を認容する。包括遺贈への減殺により取得した持分は遺産分割の対象外であり、直接の登記請求および侵害に対する損害賠償請求が可能である。
実務上の射程
平成30年相続法改正前の事案であるが、包括遺贈が行われた場合の遺留分の法的性質を論じる際の基本判例となる。現行法下での遺留分侵害額請求(金銭債権化)においても、遺留分権利者が取得する権利が遺産分割という全体的な調整枠組みの外にあるという法的構成の理解に資する。
事件番号: 平成8(オ)2292 / 裁判年月日: 平成11年6月24日 / 結論: 棄却
遺留分減殺の対象としての要件を満たす贈与を受けた者が、右贈与に基づいて目的物の占有を取得し、民法一六二条所定の期間、平穏かつ公然にこれを継続し、取得時効を援用したとしても、右贈与に対する減殺請求による遺留分権利者への右目的物についての権利の帰属は妨げられない。
事件番号: 平成9(オ)685 / 裁判年月日: 平成10年6月11日 / 結論: 破棄差戻
一 被相続人の全財産が相続人の一部の者に遺贈された場合において、遺留分減殺請求権を有する相続人が、遺贈の効力を争うことなく、遺産分割協議の申入れをしたときは、特段の事情のない限り、その申入れには遺留分減殺の意思表示が含まれていると解すべきである。 二 遺留分減殺の意思表示が記載された内容証明郵便が留置期間の経過により差…