一 被相続人の全財産が相続人の一部の者に遺贈された場合において、遺留分減殺請求権を有する相続人が、遺贈の効力を争うことなく、遺産分割協議の申入れをしたときは、特段の事情のない限り、その申入れには遺留分減殺の意思表示が含まれていると解すべきである。 二 遺留分減殺の意思表示が記載された内容証明郵便が留置期間の経過により差出人に還付された場合において、受取人が、不在配達通知書の記載その他の事情から、その内容が遺留分減殺の意思表示又は少なくともこれを含む遺産分割協議の申入れであることを十分に推知することができ、また、受取人に受領の意思があれば、郵便物の受取方法を指定することによって、さしたる労力、困難を伴うことなく右内容証明郵便を受領することができたなど判示の事情の下においては、右遺留分減殺の意思表示は、社会通念上、受取人の了知可能な状態に置かれ、遅くとも留置期間が満了した時点で受取人に到達したものと認められる。
一 遺産分割協議の申入れに遺留分減殺の意思表示が含まれていると解すべき場合 二 遺留分減殺の意思表示が記載された内容証明郵便が留置期間の経過により差出人に還付された場合に意思表示の到達が認められた事例
民法97条,民法907条,民法1031条
判旨
全財産が一部の相続人に遺贈された場合に、他の相続人が遺贈の効力を争わずに遺産分割協議を申し入れたときは、特段の事情がない限り、遺留分減殺(現・遺留分侵害額請求)の意思表示が含まれると解される。また、受取人が不在配達通知書を確認し、内容を推知でき、かつ受領に特段の困難がない状況であれば、書留郵便が留置期間経過により返送されたとしても、社会通念上、意思表示は到達したものと認められる。
問題の所在(論点)
1. 遺贈の効力を争わない遺産分割協議の申入れが、遺留分減殺の意思表示(旧民法1042条)に該当するか。2. 不在により受領されず返送された書留郵便による意思表示が、民法97条1項の「到達」にあたるか。
規範
1. 全財産が一部の者に遺贈された場合、他の相続人が遺贈の効力を争わずに行う遺産分割協議の申入れは、特段の事情がない限り、遺留分減殺の意思表示を包含する。2. 意思表示の「到達」(民法97条1項)とは、相手方の了知可能な状態に置かれることを意味し、不在配達通知書により内容を推知でき、受領に客観的な支障がない場合は、現実の受領がなくとも了知可能な状態に置かれたといえる。
重要事実
被相続人Dは全財産を養子である被上告人に遺贈した。実子である上告人らは、遺贈の効力を争わず「分割協議をしたい」旨の普通郵便を送付。その後、弁護士から遺留分減殺の意思表示を記載した内容証明郵便を送付したが、被上告人は不在配達通知書を確認しながら仕事の多忙を理由に受領せず、留置期間経過により返送された。なお、被上告人は弁護士から遺留分の説明を受けており、郵便の内容を推知していた。
あてはめ
1. 本件では全財産が被上告人に遺贈されており、上告人らが配分を受けるには遺留分減殺によるほかない状況であった。遺贈を争わずに分割を求めた事実は、遺留分に基づく配分を求める趣旨と解するのが相当である。2. 被上告人は不在通知により差出人を知り、内容が遺産分割に関するものと推知していた。また、長期間の不在等の客観的状況もなく、受取方法の指定により容易に受領できた。したがって、遅くとも留置期間満了時には了知可能な状態に置かれたといえる。
結論
1. 遺産分割協議の申入れには遺留分減殺の意思表示が含まれる。2. 本件内容証明郵便による意思表示は、遅くとも留置期間満了時に相手方に到達した。
実務上の射程
遺留分侵害額請求の期間制限(民法1048条)が問題となる場面で、明示的な文言がない通知や、相手方の受領拒絶的な態度によって期間経過が争われる事案における有力な規範となる。特に「到達」の判断は、信義則上の受領拒絶に近い事案において広く射程を有する。
事件番号: 昭和40(オ)1084 / 裁判年月日: 昭和41年7月14日 / 結論: 棄却
遺留分権利者の減殺請求権は形成権であると解すべきである。