相続による特定財産の所有権取得を原因とする登記手続請求訴訟において、被相続人が死亡時までに死因贈与により右財産の所有権を喪失したとの抗弁が提出された場合、裁判所が、右死因贈与の主張には生前贈与の主張をも包含するものと解して生前贈与による所有権喪失を認定しても、当事者の主張しないことを認定した違法はない。
死因贈与の主張に対し生前贈与を認定することの許否
民訴法186条,民法549条,民法554条
判旨
弁論主義の下においても、裁判所は当事者の明示的な主張のみに拘束されるのではなく、事実上の主張及び弁論の全趣旨を合理的に解釈することで、主張に含まれると解される事実を認定することができる。
問題の所在(論点)
当事者が明示的に「贈与契約の成立」という語を用いて主張していない場合に、裁判所が弁論の全趣旨等からこれを認定することが、当事者の主張しない事実を認定したとして弁論主義(民事訴訟法)に違反するか。
規範
弁論主義(第1テーゼ)により、裁判所は当事者の主張しない事実を判決の基礎とすることはできない。もっとも、主張の有無は、当該書面等の文言のみならず、事実上の主張及び弁論の全趣旨を総合して判断すべきであり、特定の法律効果を発生させる事実(主要事実)が、当事者の主張中に実質的に包含されていると解される場合には、これを認定しても弁論主義には違反しない。
重要事実
亡Dの相続人である上告人らが、本件土地の所有権を主張したのに対し、被上告人はDが土地所有権を喪失した旨の抗弁を提出した。原審は、被上告人の主張及び弁論の全趣旨を検討した結果、Dの生前に亡Eとの間で贈与契約が成立したとの事実が、被上告人の抗弁の中に包含されていると解釈し、当該贈与の事実を認定した。これに対し上告人側は、贈与契約の成立は当事者が主張していない事実であるとして、弁論主義違反を理由に上告した。
あてはめ
本件において、被上告人はDの所有権喪失という抗弁を提出しており、その具体的な内容として贈与の事実が示唆されていた。記録によれば、被上告人の事実上の主張のみならず、弁論の全趣旨をあわせて考慮すれば、D・E間での贈与契約の成立という事実は、被上告人の抗弁の中に実質的に包含されていると解することができる。したがって、原審がこの贈与事実を肯定し判決の基礎としたことは、当事者の合理的な意思に反する不意打ちとはいえず、主張の範囲内の認定として正当化される。
結論
被上告人の抗弁には贈与契約の主張が包含されていると解されるため、原判決が同事実を認定したことに弁論主義違反の違法はなく、上告は棄却される。
実務上の射程
裁判所による「主張の釈明・構成」の限界を示す事例である。答案上は、当事者の主張が不明確な場合に、弁論の全趣旨を駆使して主要事実の主張を拾い上げる際の論拠として活用できる。ただし、全く主張されていない事実を認定することは許されないため、あくまで「主張に包含されている」といえるかどうかの認定・評価が重要となる。
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