原告らが、係争不動産は原告らの被相続人乙が甲から買い受け乙の死亡によつて原告らが共同相続したものであると主張して、右不動産の所有名義人である被告に対し、共有持分権に基づき各持分に応ずる所有権移転登記手続を求め、これに対し被告が、右不動産は被告の夫丙が甲から買い受けたものであり丙の死亡によつて被告がそれを相続取得したものであると主張したにとどまる場合において、裁判所が、右不動産は乙が甲から買い受けたのち丙に死因贈与したものであるとの事実を認定し、原告らの請求を排斥するのは、弁論主義に違反する。
不動産の所有権移転経過の認定について弁論主義違反の違法があるとされた事例
民訴法186条
判旨
相続による特定財産の取得を主張する者は、被相続人が生前に当該財産の所有権を取得した事実及び自己の相続の事実を主張立証すれば足り、被相続人の処分行為により財産が相続財産から逸出した事実は、承継を争う側が抗弁として主張立証責任を負う。
問題の所在(論点)
当事者が主張していない「被相続人による生前処分(死因贈与)」の事実を、裁判所が証拠に基づき認定して請求を排斥することが、弁論主義(第1テーゼ)に違反するか。
規範
弁論主義の下、裁判所は当事者が主張しない事実を判決の基礎とすることはできない。相続による権利主張において、原告(相続人)は、①被相続人が生前その財産の所有権を取得した事実、②自己が相続によりこれを承継した事実を主張立証すれば足りる。これに対し、被相続人の生前処分(死因贈与等)により当該財産が相続財産の範囲から逸出した事実は、相続を争う被告側が主張立証責任を負う「抗弁」にあたる。したがって、被告が当該事実を抗弁として主張しない限り、裁判所がこれを認定して請求を排斥することは許されない。
重要事実
上告人ら(原告)は、亡父Fが買い受けた土地につき、Fの死亡により共同相続したと主張して、登記名義人である被上告人(被告・Fの子Eの妻)に対し持分移転登記を求めた。これに対し被上告人は、当該土地は夫Eが買い受けたものであると主張(積極否認)した。原審は、土地を買い受けたのはFであると認定したが、同時に被上告人が主張していない「FからEへの死因贈与」という事実を認定し、相続財産から逸出したとして上告人らの請求を棄却した。
あてはめ
本件において、上告人らはFの所有権取得と相続の事実を主張している。これに対し被上告人は、Fの所有を否定してEが買い受けた旨を主張するにとどまり、FからEへの死因贈与があったとの事実は主張していない。この「死因贈与による相続財産からの逸出」は、相続を否定するための抗弁事項である。原審が、被上告人から抗弁として主張されていない死因贈与の事実を証拠に基づき認定したことは、当事者の主張しない主要事実を判決の基礎としたものであり、弁論主義に違反すると評価される。
結論
被上告人が抗弁として主張しない事実(死因贈与)を認定して請求を排斥した原判決は、弁論主義に違反し、破棄を免れない。本件を差し戻す。
実務上の射程
弁論主義の第1テーゼ(主要事実の主張責任)に関する重要判例である。答案上は、相続を原因とする請求において、権利の発生(所有権取得+相続)と、その消滅・障害原因(生前処分による逸出)の主張立証責任を分配する際の指針となる。被告の主張が単なる「積極否認」か「抗弁」かを区別する文脈で活用すべきである。
事件番号: 昭和42(オ)1465 / 裁判年月日: 昭和44年1月28日 / 結論: 棄却
遺留分権利者の行使する減殺請求権は形成権である。