遺留分減殺の対象としての要件を満たす贈与を受けた者が、右贈与に基づいて目的物の占有を取得し、民法一六二条所定の期間、平穏かつ公然にこれを継続し、取得時効を援用したとしても、右贈与に対する減殺請求による遺留分権利者への右目的物についての権利の帰属は妨げられない。
遺留分減殺の対象としての要件を満たす贈与に基づき目的物を占有した者の取得時効の援用と減殺請求による遺留分権利者への右目的物についての権利の帰属
民法162条,民法1030条,民法1031条
判旨
遺留分減殺の対象となる贈与の受贈者が、目的物を時効取得したとしても、遺留分権利者の減殺請求による権利帰属は妨げられない。受贈者は贈与から減殺請求までに時効期間が経過しても、遺留分を侵害する限度で権利が遺留分権利者に帰属することを容認すべきである。
問題の所在(論点)
遺留分減殺の対象となる要件を満たす贈与の受贈者が、目的物について取得時効(民法162条)の要件を満たし時効を援用した場合、遺留分減殺請求による権利の帰属が妨げられるか。取得時効と遺留分減殺請求の優劣が問題となる。
規範
遺留分減殺請求により、贈与は遺留分を侵害する限度で失効し、受贈者が取得した権利は当然に遺留分権利者に帰属する。遺留分制度が贈与の時期を問わず減殺対象とする点や、被相続人の生存中は遺留分権利者に時効中断の手段がない点に鑑みれば、受贈者が民法162条所定の期間占有を継続し取得時効を援用しても、遺留分権利者への権利帰属は妨げられない。
重要事実
被相続人Dの遺留分権利者である被上告人らは、受贈者である上告人らに対し、遺留分減殺請求権を行使した。これに対し上告人らは、贈与に基づき目的物の占有を取得し、民法162条所定の期間、平穏かつ公然に占有を継続したとして取得時効を援用し、目的物の権利は自らに帰属すると主張して争った。
あてはめ
民法は減殺対象となる贈与につき、時期を問わず減殺を認めている。本件贈与が減殺対象の要件を満たす以上、上告人らが時効期間の占有を継続したとしても、被相続人の生存中に被上告人らが時効を中断する法的手段は存在しない。したがって、上告人らは時効完成にかかわらず、減殺請求によって権利が被上告人らに帰属することを容認すべきであり、時効援用によって権利帰属を拒むことはできない。
結論
受贈者が取得時効を援用しても、遺留分権利者への権利の帰属は妨げられない。したがって、上告人らの時効再抗弁は認められない。
実務上の射程
遺留分侵害額請求(改正前減殺請求)に対し、受贈者側からなされる取得時効の抗弁を封じる規範として機能する。ただし、本判例は贈与の受贈者に関するものであり、第三者への転売等があった場合の即時取得や時効取得にそのまま妥当するかは別途検討を要する。
事件番号: 昭和53(オ)190 / 裁判年月日: 昭和57年3月4日 / 結論: 棄却
遺留分減殺請求権の行使の効果として生じた目的物の返還請求権等は、民法一〇四二条所定の消滅時効に服しない。