相続人が被相続人から贈与された金銭をいわゆる特別受益として遺留分算定の基礎となる財産の価額に加える場合には、贈与の時の金額を相続開始の時の貨幣価値に換算した価額をもつて評価すべきである。
相続人が被相続人から贈与された金銭をいわゆる特別受益として遺留分算定の基礎となる財産の価額に加える場合と受益額算定の方法
民法903条,民法904条,民法1029条,民法1044条
判旨
金銭を特別受益として遺留分算定の基礎となる財産に加える場合、贈与時の金額を相続開始時の貨幣価値に換算した価額で評価すべきである。
問題の所在(論点)
遺留分算定の基礎となる財産に算入すべき特別受益(民法1044条、903条1項)が「金銭」である場合、その評価基準時はいつか、また貨幣価値の変動を考慮すべきか。
規範
特別受益としての金銭の贈与を評価する際は、贈与時の金額をそのまま用いるのではなく、贈与時の金額を相続開始時の貨幣価値に換算した価額をもって評価するべきである。これは、相続分の前渡としての意義を有する特別受益を相続財産に加算し、共同相続人相互の衡平を維持するという持戻制度の趣旨に基づく。
重要事実
被相続人が、相続人の一人に対し、生計の資本として金銭を贈与した。その後、相続が開始し、遺留分算定の基礎となる財産を算出するにあたって、当該贈与(特別受益)の評価額が問題となった。原審は、物価指数に従って贈与時の金額を相続開始時の貨幣価値に換算して評価したため、上告人がこれを不服として上告した。
あてはめ
特別受益の持戻しは、共同相続人間の公平を諮るための制度である。金銭贈与の場合、単に当時の名目額を基準にすると、その後のインフレーション等による貨幣価値の低下を無視することになり、他の相続人との間で不公平が生じる。本件においても、物価指数に基づき贈与時の金額を相続開始時の貨幣価値に換算することで、実質的な贈与価値を算定しており、持戻制度の趣旨に適合するといえる。また、このような換算は金銭の支払手段としての機能を損なうものでもない。
結論
贈与された金銭の額を物価指数に従って相続開始時の貨幣価値に換算すべきとした原審の判断は正当である。
実務上の射程
遺留分侵害額請求や遺産分割における特別受益の評価全般に射程が及ぶ。答案では「衡平の観点」をキーワードに、名目額ではなく相続開始時を基準とした実質的価値で算定することを明示する。なお、金銭以外の動産・不動産については「受贈当時の状態で相続開始時の時価」により評価するのが原則であるため、金銭特有の評価手法として整理しておく必要がある。
事件番号: 昭和52(オ)1144 / 裁判年月日: 昭和55年2月7日 / 結論: 破棄差戻
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事件番号: 平成9(オ)2117 / 裁判年月日: 平成10年3月24日 / 結論: 破棄差戻
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