給与所得に係る源泉所得税の納税告知処分について,法定納期限が経過したという一事をもって,当該源泉所得税の納付義務を成立させる支払の原因となる行為の錯誤無効を主張してその適否を争うことが許されないとはいえない。
給与所得に係る源泉所得税の納税告知処分について,法定納期限の経過後に当該源泉所得税の納付義務を成立させる支払の原因となる行為の錯誤無効を主張してその適否を争うことの可否
所得税法183条1項,国税通則法36条1項,民法95条
判旨
給与所得に係る源泉所得税の納税告知処分に関し、その原因となる支払行為(本件では債務免除)に錯誤無効がある場合でも、法定納期限の経過のみをもってその主張が封じられることはない。しかし、納税告知処分の適否を争うためには、単に無効を主張するだけでなく、処分時までに当該行為による経済的成果がその無効に基因して失われている必要がある。
問題の所在(論点)
源泉所得税の納税告知処分において、その原因となった法律行為(債務免除)の錯誤無効を、法定納期限の経過後に主張して処分の適否を争うことができるか、またその要件は何か。
規範
1. 源泉所得税の納付義務を成立させる支払原因行為が無効であり、かつ、その行為により生じた経済的成果が当該無効に基因して失われたときは、税務署長は当該支払の存在を前提とした納税告知処分を行うことはできない。 2. 錯誤無効の主張を一定期間内に限る旨の法令の規定はなく、法定納期限の経過によって納付義務が確定するものでもないため、法定納期限の経過のみをもって錯誤無効の主張が許されないとする理由はない。
重要事実
1. 権利能力のない社団である上告人は、理事長Aに対し、約48億円の借入債務を免除した(本件債務免除)。 2. 税務署長は、本件債務免除益がAに対する賞与に該当するとして、上告人に対し源泉所得税の納税告知処分等を行った。 3. 上告人は、過去の異議申立て決定等から本件免除益が非課税(資力喪失による債務免除)になると誤信しており、課税されるのであれば前提条件に錯誤があるとして、債務免除の無効を主張した。 4. 原審は、租税法律関係の安定を理由に、法定納期限経過後の錯誤無効の主張は許されないとして棄却した。
事件番号: 平成10(行ツ)149 / 裁判年月日: 平成15年12月19日 / 結論: 棄却
いわゆる一括支払システムに関する契約において譲渡担保権者と納税者との間でされた国税徴収法24条2項による告知書の発出の時点で譲渡担保権を実行することを内容とする合意は,同条5項の趣旨に反して無効である。 (補足意見がある。)
あてはめ
1. 原審は法定納期限の経過をもって主張を排斥したが、法令上の制限がない以上、その解釈は誤りである。 2. しかし、納税告知処分の違法をいうためには、原因行為が無効であることに加え、処分時までに「経済的成果が失われたこと」が必要である。 3. 本件では、上告人は納税告知処分が行われた時点までに、債務免除により生じた経済的成果(Aが債務を免れた状態)が、無効を理由に解消された(債権が復活した)等の主張をしていない。 4. したがって、前提となる経済的成果が失われていない以上、処分の違法を導くことはできない。
結論
法定納期限経過後であっても錯誤無効の主張自体は可能であるが、本件では処分時までに経済的成果が失われた事実がないため、納税告知処分は適法である。
実務上の射程
所得税法28条1項(賞与)、同法181条、183条(源泉徴収義務)、民法95条(錯誤)。
事件番号: 平成26(行ヒ)167 / 裁判年月日: 平成27年10月8日 / 結論: 破棄差戻
権利能力のない社団の理事長及び専務理事の地位にあった者が当該社団から借入金債務の免除を受けることにより得た利益は,① 同人が当該社団から長年にわたり多額の金員を繰り返し借り入れていたところ,当該社団がこのような貸付けを行ったのは同人が上記の地位にある者としてその職務を行っていたことによるものとみるのが相当であること,②…
事件番号: 昭和38(オ)499 / 裁判年月日: 昭和39年10月22日 / 結論: 棄却
所得税確定申告書の記載内容についての錯誤の主張は、その錯誤が客観的に明白かつ重大であつて、所得税法の定めた過誤是正以外の方法による是正を許さないとすれば納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合でなければ、許されないものと解すべきである。
事件番号: 昭和50(行ツ)94 / 裁判年月日: 昭和51年4月27日 / 結論: 破棄差戻
課税処分を受けていまだ当該課税処分にかかる税を納付していない者は、右課税処分の無効確認を求める訴を提起することができる。
事件番号: 平成19(行ヒ)105 / 裁判年月日: 平成22年3月2日 / 結論: 破棄差戻
ホステスの業務に関する報酬の額が一定の期間ごとに計算されて支払われている場合において,所得税法施行令322条にいう「当該支払金額の計算期間の日数」は,ホステスの実際の稼働日数ではなく,当該期間に含まれるすべての日数を指す。