所得税確定申告書の記載内容についての錯誤の主張は、その錯誤が客観的に明白かつ重大であつて、所得税法の定めた過誤是正以外の方法による是正を許さないとすれば納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合でなければ、許されないものと解すべきである。
所得税確定申告書の記載内容について錯誤の主張は許されるか。
所得税法(昭和37年法律67号による改正前)27条1項,所得税法(昭和37年法律67号による改正前)27条6項,民法95条
判旨
申告納税制度の下では、確定申告の錯誤無効を主張することは原則として許されず、錯誤が客観的に明白かつ重大で、法定の是正手続以外に是正を許さないことが納税義務者の利益を著しく害する特段の事情がある場合に限り許される。
問題の所在(論点)
申告納税方式による所得税の確定申告において、法定の是正手続(更正の請求等)によらず、民法上の錯誤規定を援用して申告の無効を主張できるか。
規範
所得税法が申告納税制度を採用し、過誤の是正について更正の請求等の特別の規定を設けた趣旨は、租税債務を速やかに確定させる国家財政上の要請と納税義務者の不利益回避の調和にある。したがって、確定申告の内容に錯誤がある場合であっても、法定の是正方法によらない無効主張は、①その錯誤が客観的に明白かつ重大であり、かつ、②法定の方法以外に是正を許さないならば納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合に限り、例外的に許される。
重要事実
上告人は、亡父から相続した山林の立木を売却し、課税所得金額約302万円とする所得税の確定申告を行った。上告人は、自身が全財産を家督相続したと誤信していたが、実際には共同相続であり、上告人の相続分は6分の1に過ぎなかったため、要素の錯誤により申告は無効であると主張した。しかし、当該売買契約は上告人のみが売主となって行われ、代金全額を上告人が受領していた。
事件番号: 昭和37(オ)1259 / 裁判年月日: 昭和38年10月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】課税処分における所得金額の推計に関し、被上告人が採用した所得標準率の作成方法が適正である限り、これを用いて農業所得を算出することは、推計の手法として不相当とはいえず適法である。 第1 事案の概要:上告人は農業所得等の金額算出において、被上告人が採用した所得標準率に不服を申し立てた。具体的には、麦の…
あてはめ
本件では、確定申告書自体に誤記や誤算等の誤謬は存在せず、客観的に明白な錯誤とはいえない。また、上告人が単独で売買を行い代金全額を受領しているという事実関係に照らせば、法定の手続外で無効を認めなければ納税義務者の利益を著しく害するという特段の事情(上記規範②)も認められない。したがって、法定の方法によらない無効主張は許されない。
結論
上告人の無効主張は認められず、本件確定申告を有効とした原判決は正当である。
実務上の射程
本判決は租税法における信義則や手続的安定性を重視する立場を示す。実務上、更正の請求期間を徒過した後の救済は極めて限定的であり、答案では「明白かつ重大」という厳格な要件を充たすか否かを、申告書の外形的な誤りや経済的実態との乖離の程度から慎重に検討する必要がある。
事件番号: 昭和35(オ)49 / 裁判年月日: 昭和35年12月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】他名義の預金の存在や、所得率が著しく低いこと等は、所得税法上の青色申告承認の取消事由に該当し、当該取消処分は適法である。 第1 事案の概要:上告人は青色申告の承認を受けていたが、税務署長(被上告人)は、DおよびEという他人の名義を用いた別途預金が存在していること、および所得率が実態に比して著しく過…
事件番号: 昭和32(オ)859 / 裁判年月日: 昭和33年6月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】所得税更正決定における所得金額の認定の誤りは、特段の事情がない限り、行政行為の内容上の誤りにすぎず、当然無効を基礎付ける重大かつ明白な瑕疵とはいえない。 第1 事案の概要:上告人は、税務署長が行った所得税の更正決定について、所得金額の認定に誤りがあるとして、当該更正決定の無効確認を求めて出訴した。…
事件番号: 昭和41(行ツ)8 / 裁判年月日: 昭和43年10月31日 / 結論: 棄却
旧所得税法(昭和二二年法律第二七号)第五条の二の規定は、資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得とし、それを右資産の他への移転の時期において課税の対象とするのを相当と認め、それが対価を伴わずに移転される場合にもいわゆる譲渡所得に準じて取り扱うべきものとしたのであつて、所得のないところに課税所得の存在を擬…
事件番号: 昭和39(行ツ)111 / 裁判年月日: 昭和40年9月24日 / 結論: 棄却
第三者の債務の担保に供された抵当不動産が競売に付せられ競落代金が納付された場合には、求償権が事実上取立不能であつても、譲渡所得は成立する。