旧所得税法(昭和二二年法律第二七号)第五条の二の規定は、資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得とし、それを右資産の他への移転の時期において課税の対象とするのを相当と認め、それが対価を伴わずに移転される場合にもいわゆる譲渡所得に準じて取り扱うべきものとしたのであつて、所得のないところに課税所得の存在を擬制したものではない。
旧所得税法第五条の二の規定の法意
旧所得税法(昭和22年法律第27号)5条の2
判旨
譲渡所得課税は資産の値上がりによる増加益を清算して課税する趣旨であり、贈与時にもその時点の時価により増加益が実現したとみなして課税することは憲法に違反しない。
問題の所在(論点)
資産の贈与という「対価を伴わない資産の移転」があった場合に、譲渡所得税を課すことの適否、およびその合憲性(租税の公平負担の原則等との整合性)。
規範
譲渡所得に対する課税の本質は、資産の値上がりにより所有者に帰属する増加益(キャピタル・ゲイン)を所得として捉え、その資産が所有者の支配を離れて他に移転する機会に、これを清算して課税する点にある。対価を伴わない贈与等の場合であっても、移転時の時価によって増加益を具体的に把握できるため、移転時において増加益が実現したものとみなして課税対象とすることは、課税の公平負担の原則に合致し、実質的な所得に対する課税として妥当である。
重要事実
亡Dの所有していた不動産を、相続人である上告人らが相続によって取得した。その後、上告人らはDの相続人ではない訴外EおよびFに対し、当該不動産を贈与した。税務当局は、この不動産の贈与について、当時の所得税法5条の2(現在の所得税法59条1項1号に相当する規定)を適用し、資産の増加益が実現したものとして上告人らに譲渡所得課税等を行った。上告人は、対価のない贈与に課税するのは所得のないところに課税を擬制するものであり、憲法29条(財産権)等に違反すると主張して争った。
事件番号: 昭和41(行ツ)102 / 裁判年月日: 昭和47年12月26日 / 結論: 棄却
一、譲渡所得に対する課税は、資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者から他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものと解すべきである。 二、甲所有の不動産が、代金の支払は長期にわたる割賦弁済による約定のもとに、乙に売り渡された場合であつても、売買契約の成立当日所有権移…
あてはめ
まず、譲渡所得税の趣旨は資産の保有期間中に生じた含み益を移転時に清算することにある。本件贈与において、不動産は上告人らの支配を離れてE・Fに移転しており、この移転時期に増加益が顕在化したといえる。次に、贈与を非課税とすれば、時価売却後に代金を贈与した場合と比較して著しく不公平となり、低額譲渡等による租税回避を招くおそれがある。したがって、贈与によって納税資金(対価)が得られない場合であっても、帰属した増加益を時価で算定し課税することは、所得の存在を擬制するものではなく、応能負担の原則や公平負担の原則に反しない。
結論
資産の贈与に対し、移転時の時価に基づき増加益を課税対象とする規定(旧所得税法5条の2)は合憲であり、上告人への課税処分は適法である。
実務上の射程
所得税法59条1項1号(贈与等による譲渡所得の総収入金額算入)の合憲的根拠(増加益清算説)を説明する際のリーディングケースである。答案では、譲渡所得の定義や趣旨を述べる際の基礎理論として引用する。特に、納税資金が確保されていない場面での課税の是非が問われる問題において、課税の公平と租税回避防止の観点から「増加益の清算」というキーワードを用いて論証を構成する際に有用である。
事件番号: 昭和38(オ)499 / 裁判年月日: 昭和39年10月22日 / 結論: 棄却
所得税確定申告書の記載内容についての錯誤の主張は、その錯誤が客観的に明白かつ重大であつて、所得税法の定めた過誤是正以外の方法による是正を許さないとすれば納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合でなければ、許されないものと解すべきである。
事件番号: 昭和62(行ツ)142 / 裁判年月日: 昭和63年7月19日 / 結論: 棄却
所得税法六〇条一項一号にいう「贈与」には贈与者に経済的な利益を生じさせる負担付贈与を含まない。
事件番号: 昭和39(行ツ)111 / 裁判年月日: 昭和40年9月24日 / 結論: 棄却
第三者の債務の担保に供された抵当不動産が競売に付せられ競落代金が納付された場合には、求償権が事実上取立不能であつても、譲渡所得は成立する。
事件番号: 平成20(行ヒ)419 / 裁判年月日: 平成22年3月30日 / 結論: 破棄差戻
1 県が施行する道路事業の用地として所有地を買い取られたことに伴い,県から同土地上に存する所有建物を移転することに対する補償金の支払を受けた個人が,当該建物を第三者に譲渡して上記土地外に曳行移転させた場合において,上記補償金のうちに上記曳行移転の費用に充てられた金額があるときは,当該金額について所得税法44条の適用を受…