権利能力のない社団の理事長及び専務理事の地位にあった者が当該社団から借入金債務の免除を受けることにより得た利益は,① 同人が当該社団から長年にわたり多額の金員を繰り返し借り入れていたところ,当該社団がこのような貸付けを行ったのは同人が上記の地位にある者としてその職務を行っていたことによるものとみるのが相当であること,② 当該社団が同人の申入れを受けて上記借入金債務の免除に応ずるに当たっては当該社団に対する同人の貢献についての評価が考慮されたことがうかがわれることなど判示の事情の下においては,所得税法28条1項にいう賞与又は賞与の性質を有する給与に該当する。
権利能力のない社団の理事長及び専務理事の地位にあった者が当該社団からの借入金債務の免除を受けることにより得た利益が,所得税法28条1項にいう賞与又は賞与の性質を有する給与に当たるとされた事例
所得税法28条1項
判旨
役員が法人から受けた債務免除益が、所得税法28条1項の「賞与」に該当するか否かは、資力喪失による弁済困難という事情があっても、法人の役務提供に対する対価性や功労への報償等の観点から判断される。本判決は、長年の多額貸付けの経緯や役員としての貢献が考慮されている場合、当該利益は給与所得にあたると判示した。
問題の所在(論点)
法人の役員に対する債務免除益が、所得税法28条1項にいう「賞与又は賞与の性質を有する給与」に該当するか。特に、債務者が資力喪失の状態にあることが、給与所得性の判断にどう影響するか。
規範
所得税法28条1項にいう給与所得とは、雇用契約等に基づき提供した労務又は役務の対価として受ける給付を指す。また、賞与とは、功労への報償等の観点をも考慮して臨時的に付与される給付(金銭以外の経済的利益を含む)をいう。債務免除益であっても、役員としての地位に基づき、役務提供の対価や功労報償として付与されたと認められる場合には、同項の賞与に該当する。
重要事実
事件番号: 昭和56(行ツ)167 / 裁判年月日: 昭和57年12月21日 / 結論: 棄却
所得税法二五条二項二号の規定は、憲法二九条、八四条に違反しない。
権利能力のない社団である被上告人の理事長Aは、多額の借入金を運用し損失を出したが、被上告人はAの理事長等の地位を背景に長年多額の貸付けを継続した。平成19年、被上告人はAの資力喪失により弁済困難であること、及びAの長年の貢献を考慮し、約48億円の債務免除(本件債務免除)を行った。税務署長は、本件債務免除益が賞与にあたるとして源泉所得税の納税告知等を行ったが、原審は、免除の主たる理由がAの資力喪失にあるとして給与所得該当性を否定した。
あてはめ
Aは長年にわたり多額の金員を繰り返し借り入れているが、これはAが理事長等の地位にあったことによるものとみるのが相当である。また、被上告人が債務免除を決定する際、Aの理事長等としての貢献に対する評価が考慮されていた。これらの事情に鑑みれば、本件債務免除益は、Aが被上告人に対し雇用契約に類する原因に基づき提供した役務の対価として、功労への報償等の観点から臨時的に付与された給付と認められる。したがって、たとえAに資力がなく弁済困難であったとしても、給与所得としての性質を失うものではない。
結論
本件債務免除益は、所得税法28条1項にいう賞与又は賞与の性質を有する給与に該当する。したがって、給与所得該当性を否定した原判決は破棄されるべきである。
実務上の射程
給与所得の定義(「役務の対価」性)を確認する上で重要である。実務上、債務者が困窮している場合の債務免除は贈与等と混同されやすいが、法人・役員間の関係性(過去の経緯や功労の考慮)から対価性が認められれば給与所得として源泉徴収義務が生じることを示す。答案では、単に「経済的利益がある」だけでなく「役務提供との対価関係」の有無を事実から拾う際の規範として用いる。
事件番号: 平成16(行ヒ)141 / 裁判年月日: 平成17年1月25日 / 結論: 棄却
米国法人の子会社である日本法人の代表取締役が,親会社である米国法人から親会社の株式をあらかじめ定められた権利行使価格で取得することができる権利(いわゆるストックオプション)を付与されてこれを行使し,権利行使時点における親会社の株価と所定の権利行使価格との差額に相当する経済的利益を得た場合において,上記権利は,親会社が同…
事件番号: 平成17(行ヒ)96 / 裁判年月日: 平成18年11月16日 / 結論: その他
納税者が平成11年分の所得税の確定申告において勤務先の日本法人の親会社である外国法人から付与されたストックオプションの権利行使益を一時所得として申告したところ,同権利行使益が給与所得に当たるとして増額更正がされた場合において,(1)外国法人である親会社から日本法人である子会社の従業員等に付与されたストックオプションに係…
事件番号: 平成29(行ヒ)209 / 裁判年月日: 平成30年9月25日 / 結論: 棄却
給与所得に係る源泉所得税の納税告知処分について,法定納期限が経過したという一事をもって,当該源泉所得税の納付義務を成立させる支払の原因となる行為の錯誤無効を主張してその適否を争うことが許されないとはいえない。