抵当権者に対抗することができない賃借権が設定された建物が担保不動産競売により売却された場合において,その競売手続の開始前から当該賃借権により建物の使用又は収益をする者は,当該賃借権が滞納処分による差押えがされた後に設定されたときであっても,民法395条1項1号に掲げる「競売手続の開始前から使用又は収益をする者」に当たる。
滞納処分による差押えがされた後に設定された賃借権により担保不動産競売の開始前から建物の使用又は収益をする者の民法395条1項1号に掲げる「競売手続の開始前から使用又は収益をする者」該当性
民法395条1項1号,民事執行法83条,民事執行法188条
判旨
滞納処分による差押え後に設定された抵当権対抗不能な賃借権であっても、民事執行法上の競売手続開始前から使用収益する者は、民法395条1項1号の明渡猶予の対象に含まれる。
問題の所在(論点)
民法395条1項1号にいう「競売手続の開始」に滞納処分による差押えが含まれるか。すなわち、滞納処分による差押え後に設定された賃借権に基づき占有を開始した者が、同条の建物明渡猶予制度の適用を受けられるかが問われた。
規範
民法395条1項1号に規定する「競売手続の開始」に滞納処分による差押えは含まれない。したがって、抵当権に対抗できない賃借権が滞納処分による差押え後に設定された場合であっても、民事執行法に基づく競売手続の開始前から当該賃借権に基づき建物の使用収益をする占有者は、同号所定の「競売手続の開始前から使用又は収益をする者」に該当し、買受けの時から6か月の明渡猶予が認められる。
重要事実
抵当権に対抗できない賃借権に基づき、競売手続開始前から対象建物を使用収益していた占有者がいた。当該賃借権は、建物に対して行われた滞納処分による差押えがなされた後に設定されたものであった。本件において、買受人が占有者に対し、民法395条の明渡猶予の適用を否定して不動産引渡命令を申し立てた。
事件番号: 平成11(許)39 / 裁判年月日: 平成12年3月16日 / 結論: 棄却
滞納処分による差押えがされた後強制競売等の開始決定による差押えがされるまでの間に賃借権が設定された不動産が強制競売手続等により売却された場合に、執行裁判所は、右賃借権に基づく不動産の占有者に対し、引渡命令を発することができる。
あてはめ
民法395条1項は、競売により即時の引渡しを求められる占有者の不利益緩和と買受人との利害調整を図る趣旨である。滞納処分手続は民事執行法に基づく競売手続と同視できず、同条の文言上も「競売手続の開始」に滞納処分による差押えを含めることはできない。したがって、滞納処分後の占有であっても、民事競売手続の開始前であれば要件を満たすと評価される。
結論
本件占有者は民法395条1項1号に掲げる者に該当し、買受けの時から6か月を経過するまで引渡義務が猶予されるため、引渡命令の申立ては却下される。
実務上の射程
抵当権に後れる賃借権の占有開始時期が、税金の滞納処分(差押え)の後であっても、民事執行法上の競売手続開始前であれば明渡猶予が認められる。実務上、引渡命令の申立時期や賃借人に対する明渡交渉において、滞納処分の有無に関わらず6か月の猶予を前提とする必要があることを示す射程の広い判例である。
事件番号: 平成12(許)22 / 裁判年月日: 平成13年1月25日 / 結論: 棄却
最先順位の抵当権者に対抗することができる賃借権により競売不動産を占有する者に対しては,この者の債務を担保するために当該不動産に設定された抵当権に基づく競売開始決定(二重開始決定を含む。)がされていた場合を除き,執行裁判所は引渡命令を発することができない。
事件番号: 平成11(許)23 / 裁判年月日: 平成12年4月14日 / 結論: 破棄差戻
抵当権者は、抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合を除き、右賃借人が取得する転貸賃料債権について物上代位権を行使することができない。
事件番号: 平成11(許)25 / 裁判年月日: 平成11年10月26日 / 結論: 棄却
競売の対象とされた土地上に競売の対象とはされていない建物等が存在する場合であっても、右土地の引渡命令を発付することは許される。
事件番号: 令和4(許)13 / 裁判年月日: 令和5年3月29日 / 結論: 破棄差戻
第三債務者が差押命令の送達を受ける前に債務者との間で差押えに係る金銭債権の支払のために電子記録債権を発生させた場合において、上記差押えに係る金銭債権について発せられた転付命令が第三債務者に送達された後に上記電子記録債権の支払がされたときは、上記支払によって民事執行法160条による上記転付命令の執行債権及び執行費用の弁済…