滞納処分による差押えがされた後強制競売等の開始決定による差押えがされるまでの間に賃借権が設定された不動産が強制競売手続等により売却された場合に、執行裁判所は、右賃借権に基づく不動産の占有者に対し、引渡命令を発することができる。
滞納処分による差押えがされた後強制競売等の開始決定による差押えがされるまでの間に賃借権が設定された不動産が強制競売手続等により売却された場合において右賃借権に基づく不動産の占有者に対して引渡命令を発することの可否
民事執行法83条,民事執行法188条,滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律9条,滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律13条,滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律17条,滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律20条
判旨
滞納処分による差押え後、強制競売開始決定前に設定された賃借権は、強制執行続行決定に基づく売却により消滅し、民事執行法83条1項ただし書の「対抗することができる権原」に当たらない。
問題の所在(論点)
滞納処分による差押え後、強制競売の差押え前に設定された賃借権の占有者が、民事執行法83条1項ただし書の「買受人に対抗することができる権原」を有する者に当たるか。また、当該賃借権が売却により消滅するか。
規範
滞納処分による差押え後に設定された賃借権は、民事執行法59条2項の類推適用により、滞納処分と強制執行等の手続の調整に関する法律に基づく続行決定に係る強制競売手続等の売却によって、その効力を失う。したがって、当該賃借権は同法83条1項ただし書の「買受人に対抗することができる権原」には該当しない。
重要事実
不動産に対し、滞納処分による差押えがなされた。その後、当該不動産に賃借権が設定された。さらにその後、強制競売の開始決定による差押えがなされ、滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律に基づき強制執行の続行決定がなされた。買受人は、右賃借権に基づき占有を継続する占有者に対し、民事執行法83条に基づく引渡命令を申し立てた。
事件番号: 平成11(許)25 / 裁判年月日: 平成11年10月26日 / 結論: 棄却
競売の対象とされた土地上に競売の対象とはされていない建物等が存在する場合であっても、右土地の引渡命令を発付することは許される。
あてはめ
本件賃借権は、滞納処分による差押えがなされた後に設定されているため、滞納処分をした者に対抗できない。調整法による続行決定がなされた場合、強制競売手続は先行する滞納処分による差押えによって把握された「賃借権の負担のない交換価値」を実現することになる。よって、民事執行法59条2項を類推適用し、本件賃借権は売却によって消滅すると解される。したがって、占有者は買受人に対し占有権原を主張し得ない。
結論
執行裁判所は、当該占有者に対し、民事執行法83条に基づき不動産の引渡命令を発することができる。
実務上の射程
滞納処分と強制執行が競合する場合の権利関係を整理する重要判例である。答案上は、民事執行法59条2項の類推適用を導く根拠として、滞納処分による差押えが先行していること、および調整法による続行決定によって先行差押えの把握した交換価値が承継される点を明示して論じる必要がある。
事件番号: 平成30(許)3 / 裁判年月日: 平成30年4月17日 / 結論: 棄却
抵当権者に対抗することができない賃借権が設定された建物が担保不動産競売により売却された場合において,その競売手続の開始前から当該賃借権により建物の使用又は収益をする者は,当該賃借権が滞納処分による差押えがされた後に設定されたときであっても,民法395条1項1号に掲げる「競売手続の開始前から使用又は収益をする者」に当たる…
事件番号: 平成12(許)22 / 裁判年月日: 平成13年1月25日 / 結論: 棄却
最先順位の抵当権者に対抗することができる賃借権により競売不動産を占有する者に対しては,この者の債務を担保するために当該不動産に設定された抵当権に基づく競売開始決定(二重開始決定を含む。)がされていた場合を除き,執行裁判所は引渡命令を発することができない。
事件番号: 平成18(許)21 / 裁判年月日: 平成18年10月27日 / 結論: 破棄自判
登録自動車を目的とする民法上の留置権による競売においては,その被担保債権が当該自動車に関して生じたことが主要事実として認定されている確定判決であれば,債権者による当該自動車の占有の事実が認定されていなくとも,民事執行法181条1項1号所定の「担保権の存在を証する確定判決」に当たる。
事件番号: 昭和63(ク)304 / 裁判年月日: 昭和63年10月6日 / 結論: 棄却
民事執行法八三条による引渡命令の裁判は、憲法三二条、八二条に違反しない。