最先順位の抵当権者に対抗することができる賃借権により競売不動産を占有する者に対しては,この者の債務を担保するために当該不動産に設定された抵当権に基づく競売開始決定(二重開始決定を含む。)がされていた場合を除き,執行裁判所は引渡命令を発することができない。
最先順位の抵当権者に対抗することができる賃借権により競売不動産を占有する者が当該不動産に設定された抵当権の債務者である場合における引渡命令
民事執行法83条,民事執行法188条
判旨
最先順位の抵当権に対抗し得る賃借権を有する占有者であっても、自己の債務を担保する抵当権の実行として競売開始決定がなされている場合には、信義則上その賃借権を対抗できず、引渡命令の対象となる。
問題の所在(論点)
最先順位の抵当権に対抗できる賃借権を有する占有者が、同時に自己の債務を担保する抵当権を設定している場合、民事執行法83条1項に基づき引渡命令を発することができるか。特に「事件の記録上」明らかであるといえるための要件が問題となる。
規範
最先順位の抵当権に対抗できる賃借権を有する占有者であっても、当該不動産が自らの債務の担保に供され、債務不履行により売却代金から弁済を受けるべき事情がある場合には、賃借権の主張は信義則に反し許されない。民事執行法83条1項ただし書との関係では、当該抵当権の実行として競売開始決定(二重開始決定を含む)がなされている場合に限り、債務不履行の事実が「事件の記録上」明らかであるといえ、引渡命令を発することができる。
重要事実
本件建物の買受人(抗告人)は、占有者(相手方)に対し引渡命令を申し立てた。相手方は最先順位の抵当権に優先する賃借権に基づき占有していたが、同時に相手方自身の債務を担保するために本件建物に抵当権を設定していた。しかし、相手方の債務に係る抵当権に基づく競売開始決定はなされていなかった。
事件番号: 平成11(許)39 / 裁判年月日: 平成12年3月16日 / 結論: 棄却
滞納処分による差押えがされた後強制競売等の開始決定による差押えがされるまでの間に賃借権が設定された不動産が強制競売手続等により売却された場合に、執行裁判所は、右賃借権に基づく不動産の占有者に対し、引渡命令を発することができる。
あてはめ
相手方は最先順位の抵当権に優先する賃借権を有する。相手方自身の債務を担保する抵当権は設定されているものの、その抵当権の実行による競売開始決定はなされていない。この場合、執行事件の記録上、相手方の債務不履行の事実は明らかとはいえず、相手方の占有は依然として買受人に対抗できる賃借権に基づくものと評価される。したがって、信義則を理由に賃借権の主張を排斥し、引渡命令を発することはできない。
結論
自己の債務を担保する抵当権の実行として競売開始決定がなされていない限り、引渡命令を発することはできない。本件の申立てを却下した原審の判断は正当である。
実務上の射程
引渡命令という簡便な手続において、実体法上の信義則を適用して占有権限を否定するための限界を画した。実務上、対抗力ある賃借人が債務者(物上保証の賃借人)である場合でも、当該抵当権の実行手続に乗っていない限り引渡命令は得られず、別途明渡請求訴訟を提起する必要がある点に注意を要する。
事件番号: 平成11(許)25 / 裁判年月日: 平成11年10月26日 / 結論: 棄却
競売の対象とされた土地上に競売の対象とはされていない建物等が存在する場合であっても、右土地の引渡命令を発付することは許される。
事件番号: 平成11(許)23 / 裁判年月日: 平成12年4月14日 / 結論: 破棄差戻
抵当権者は、抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合を除き、右賃借人が取得する転貸賃料債権について物上代位権を行使することができない。
事件番号: 昭和26(ク)21 / 裁判年月日: 昭和26年4月28日 / 結論: 却下
【結論(判旨の要点)】最高裁判所が抗告に関して裁判権を有するのは、民事訴訟法(旧法)419条の2に基づき、憲法判断の不当を理由とする場合に限られる。 第1 事案の概要:抗告人は、原決定に対して最高裁判所へ抗告を申し立てた。しかし、その抗告理由は、原決定において憲法適合性に関する判断がなされた点についての不服を内容とする…
事件番号: 平成30(許)3 / 裁判年月日: 平成30年4月17日 / 結論: 棄却
抵当権者に対抗することができない賃借権が設定された建物が担保不動産競売により売却された場合において,その競売手続の開始前から当該賃借権により建物の使用又は収益をする者は,当該賃借権が滞納処分による差押えがされた後に設定されたときであっても,民法395条1項1号に掲げる「競売手続の開始前から使用又は収益をする者」に当たる…