殺人未遂幇助被告事件について,第1審判決が説示する間接事実の積み重ねによって殺人未遂幇助の意思を認定できないとして事実誤認を理由に有罪の第1審判決を破棄し無罪とした原判決が是認された事例(東京都庁郵便小包爆発事件)
刑法(平成7年法律第91号による改正前のもの)62条1項,刑法(平成7年法律第91号による改正前のもの)203条,刑法(平成7年法律第91号による改正前のもの)199条
判旨
幇助犯の成否において、正犯の具体的犯行内容や手段に関する認識を欠く場合であっても、正犯の実行行為が「人の殺傷」を伴い得ることを未必的に認識していれば殺人未遂幇助の意思を認め得るが、本件の間接事実の積み重ねによる推認過程には論理的飛躍があり、犯罪の証明がないとした原審の無罪判決は結論において正当である。
問題の所在(論点)
正犯が爆発物を用いて殺人を実行しようとしていることにつき、具体的手段(爆発物)の認識がない被告人に対し、間接事実のみから殺人未遂罪の幇助の意思(未必の故意)を認めることができるか。
規範
幇助の意思とは、正犯の実行行為を容易にさせることの認識(未必的認識を含む)をいう。組織的犯行において直接証拠がない場合、間接事実を総合して主観面を立証することになるが、その推認過程(判断構造)は論理則・経験則に照らし合理的でなければならない。特に、具体的犯行手段(爆発物の使用等)の認識が否定される中で殺人罪の幇助を認めるには、正犯の活動が「人の殺傷」を伴うことへの具体的・実質的な認識を基礎付けるに足りる間接事実の積み重ねが必要であり、単なる抽象的な結果発生の可能性や漠然とした疑念のみでは足りない。
重要事実
被告人はオウム真理教の信者であり、教団幹部らの指示を受け、爆弾の原料となる薬品類を山梨県の施設から都内のマンション(本件居室)へ数回にわたり運搬した。その後、正犯らは当該薬品を用いて爆発物を製造し、東京都知事公館等に送付・爆発させ、職員に重傷を負わせた(殺人未遂・爆発物取締罰則違反)。被告人は薬品運搬等の幇助行為を行ったが、正犯らが無差別テロを企図していることや、運搬した薬品が爆弾製造に用いられることについて、確実な認識を有していたことを示す直接証拠はなかった。
事件番号: 平成16(あ)310 / 裁判年月日: 平成20年2月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】死刑制度は憲法13条、31条、36条に違反せず、極めて残虐かつ非人道的な無差別大量殺人事件において、実行行為の中核を担った者の刑事責任は、教団幹部の指示があった等の事情を考慮しても死刑の選択がやむを得ないほど重大である。 第1 事案の概要:オウム真理教幹部である被告人は、他の幹部らと共謀し、地下鉄…
あてはめ
第一審は、(1)危険な化合物の製造、(2)教祖逮捕阻止のための活動、(3)地下鉄サリン事件への教団関与の疑念等の間接事実を階層的に積み重ね、被告人は「人の殺傷が生じ得ること」を想起可能であったとして殺人未遂幇助を認めた。しかし、(1)(2)の内容は広範かつ曖昧で、殺傷結果の予見を基礎付けるには不十分である。また、爆発物製造の認識を否定しながら殺人の認識のみを抽出する推認過程は、個々の事実の評価が不明確で重複評価もあり、抽象的な認識可能性から故意の認定へと飛躍している。各事実は被告人の漠然とした疑念や抽象的な可能性を示すにとどまり、殺人の実行を容易にするという幇助の意思を認めるに足りる合理的説明がなされていない。
結論
被告人に殺人未遂幇助の意思があったと認めるには合理的疑いが残る。したがって、第一審の有罪判決には事実誤認があり、無罪とした原判決の結論は是認される。
実務上の射程
組織的犯行における「幇助の意思」の立証において、間接事実の総合評価の限界を示した事例。特に、正犯の具体的な計画や手段を知らされていない末端の関与者に対し、状況証拠から「殺人の未必的認識」を推認する際のハードルを厳格に設定しており、裁判員裁判における事実認定の合理性審査の在り方(判断構造の検討)に指針を与えている。
事件番号: 昭和58(あ)1112 / 裁判年月日: 昭和60年12月19日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】被告人と実行犯との一連のやり取りを述べる供述において、その中核部分の信用性に合理的な疑いがある場合、特段の事情がない限り、これと密接に関連する他の供述部分の信用性にも重大な疑惑が生じる。また、被告人と暴力団関係者との個人的親交があるからといって、直ちに組織的な殺害計画への加担や知情を推認することは…
事件番号: 平成15(あ)2277 / 裁判年月日: 平成19年10月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】死刑制度は、憲法13条、31条、36条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は、オウム真理教の教祖として、多数の教団幹部らと共謀の上、地下鉄車両内にサリンを散布し多数の死傷者を出した地下鉄サリン事件、松本サリン事件、及び坂本弁護士一家殺害事件を含む13件の組織的な凶悪犯罪を主導した。これらの犯行…
事件番号: 平成19(あ)1480 / 裁判年月日: 平成23年11月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】教団幹部として、松本・地下鉄両サリン事件を含む複数の組織的な無差別殺人等の重要な役割を果たした被告人に対し、死刑を適用した一審・二審の判断を是認した事例。 第1 事案の概要:オウム真理教幹部である被告人は、(1)弁護士に対するサリン滴下(傷害)、(2)松本サリン事件(殺人・同未遂)、(3)VX使用…