共犯者の検面調書の証明力に対する評価及び証拠に基づく推理判断の過程に疑問があるとして原判決が破棄自判(無罪)された事例
刑訴法411条3号
判旨
被告人と実行犯との一連のやり取りを述べる供述において、その中核部分の信用性に合理的な疑いがある場合、特段の事情がない限り、これと密接に関連する他の供述部分の信用性にも重大な疑惑が生じる。また、被告人と暴力団関係者との個人的親交があるからといって、直ちに組織的な殺害計画への加担や知情を推認することはできない。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法336条(犯罪の証明がない場合)。一連の経過を述べる供述の一部に重大な疑いがある場合に、密接に関連する他の部分のみを分離して有罪の証拠とすることの是非、および人間関係等の間接事実による知情(正犯の犯行の認識)の推認の可否が問題となる。
規範
供述証拠の信用性判断において、一連の相関連する一個の事態の推移に関する供述のうち、中核をなす部分の信用性に合理的な疑いがあるときは、特段の事情がない限り、密接に関連する余の部分の信用性も否定されるべきである。また、間接事実から犯意や知情を推認する際には、事実間の論理的関連性が厳格に吟味されなければならず、単なる不自然さの欠如のみで肯定することは許されない。
重要事実
被告人は暴力団組長の舎弟分。実行犯Dは、対立する暴力団首領Fを殺害した。第一審はDの検察官面前調書(D検面調書)に基づき被告人を共謀共同正犯と認定。D検面調書には「被告人から銃を渡され殺害を指示された」等の核心的供述(1〜3)と、「レンタカー代として5万円を受け取った」等の付随的供述(4・5)があった。原審は1〜3の信用性を否定しつつ、4・5を信じて殺人幇助罪を認定した。被告人は一貫して否認していた。
あてはめ
事件番号: 昭和24(れ)409 / 裁判年月日: 昭和25年7月19日 / 結論: 棄却
一 正犯らが某者殺害の成功謝金につき「一〇萬圓出せ」「九萬圓で辛抱しろ」と折衝を重ねていた際、傍で「その位でやつてやれ、禮金は引受けた」と助言し結局實行正犯に九萬圓支拂う約束の下に右殺害の謀議が成立し、擔當者においてこれを實行した以上、特段の事情の認められない限り、右助言によつて正犯の犯行が容易にせられたものと推認する…
D検面調書は指示から援助まで一連の事態を述べるものであり、核心である殺害指示(1〜3)が組織上部の関与を隠すための虚偽の疑いがある以上、密接に関連する5万円交付等の供述(4・5)も同様の疑惑を免れない。また、被告人と暴力団の繋がりは個人的縁故に留まり、組織機密に属する殺害計画に加担する立場とは考えにくい。5万円交付の事実があったとしても、それが殺人の援助趣旨であるとの知情を推認するには論拠が薄弱であり、合理的な疑いを超える証明があるとはいえない。
結論
原判決の推断過程には合理性を欠く事実誤認があり、破棄を免れない。被告人を有罪とするに足りる証拠はないため、被告人は無罪である。
実務上の射程
供述の「不可分的一体性」に近い論理を用いた信用性判断の好例である。答案上では、自白や供述の一部に虚偽が混入している場合に、供述全体の信用性を弾劾する際の規範として活用できる。また、暴力団関係等の属性から安易に知情を推認する実務の傾向を戒める趣旨で、間接事実の評価の厳格性を論じる際にも有効である。
事件番号: 昭和31(あ)462 / 裁判年月日: 昭和33年6月24日 / 結論: 棄却
被告人は、甲が金品強取の目的で乙を殺害しようとしてその首を絞めているとき、その企図を察知共謀の上乙の抵抗を阻止し、また着用の腰紐を甲に与えて絞首殺害の目的を達成するに至らせた旨の訴因で、被告人において甲が乙殺害の目的でその首を絞めている企図を察知しながら、その着用の腰紐を甲に与えて、絞首殺害の目的達成を容易ならしめてこ…
事件番号: 昭和26(れ)2239 / 裁判年月日: 昭和27年6月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の自白のみで有罪とすることは憲法38条3項及び刑訴法319条1項により禁じられるが、自白以外の補強証拠が存在し、かつ自白の任意性が認められる場合には、有罪判決の基礎とすることができる。 第1 事案の概要:被告人両名(うち1名はA)に対し、一審及び二審において有罪判決が下された。被告人側は、当…
事件番号: 平成28(あ)137 / 裁判年月日: 平成29年12月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】幇助犯の成否において、正犯の具体的犯行内容や手段に関する認識を欠く場合であっても、正犯の実行行為が「人の殺傷」を伴い得ることを未必的に認識していれば殺人未遂幇助の意思を認め得るが、本件の間接事実の積み重ねによる推認過程には論理的飛躍があり、犯罪の証明がないとした原審の無罪判決は結論において正当であ…