賃借人Yが契約当事者を実質的に変更したときは賃貸人Xは契約を解除し違約金を請求することができる旨の定めのある建物の賃貸借契約において,Yが吸収分割の後は責任を負わないものとする吸収分割により契約当事者の地位をAに承継させた場合に,次の(1)~(3)など判示の事情の下においては,Yが,上記賃貸借契約を解除したXに対し,上記吸収分割がされたことを理由に上記定めに基づく違約金債権に係る債務を負わないと主張することは,信義則に反して許されず,Xは,上記吸収分割の後も,Yに対して同債務の履行を請求することができる。 (1) Xは長期にわたってYに上記建物を賃貸しその賃料によって上記建物の建築費用を回収することを予定していたと解され,Xが上記定めを設けたのは賃借人の変更による不利益を回避することを意図していたものといえ,YもXの上記のような意図を理解した上で上記賃貸借契約を締結したものといえる。 (2) Aは,上記吸収分割の前の資本金が100万円であって,上記吸収分割によって上記違約金債権の額を大幅に下回る額の資産しかYから承継しておらず,同債権に係る債務の支払能力を欠くことが明らかである。 (3) Xは,上記違約金債権を有しているとして,Yに対し,上記吸収分割について会社法789条1項2号の規定による異議を述べることができたとは解されない。
賃借人が契約当事者を実質的に変更したときは賃貸人は違約金を請求することができるなどの定めのある賃貸借契約において,当該賃借人が吸収分割の後は責任を負わないものとする吸収分割により契約当事者の地位を承継させた場合に,当該賃借人が上記吸収分割がされたことを理由に上記定めに基づく違約金債権に係る債務を負わないと主張することが信義則に反し許されないとされた事例
民法1条2項,会社法759条1項,会社法789条1項2号
判旨
会社分割(吸収分割)により債務が承継された場合であっても、分割会社が債務を免れると主張することが信義則に反して許されない場合には、債権者は分割会社に対して引き続き債務の履行を請求できる。
問題の所在(論点)
吸収分割により契約上の地位および債務が承継された場合において、分割会社が当該債務の免責を主張することが信義則により制限されるか、特に分割後に発生する債務の取扱いが問題となる。
規範
吸収分割により権利義務が承継される場合であっても、契約の経緯や目的、分割後の経済的帰属の変化、債権者保護手続の適用の有無等の諸事情に照らし、分割会社が債務を負わないと主張することが信義則(民法1条2項)に反して許されないときは、分割会社は依然として当該債務を負う。
事件番号: 平成29(許)19 / 裁判年月日: 平成29年12月19日 / 結論: 棄却
小規模個人再生において,再生債権の届出がされ(民事再生法225条により届出がされたものとみなされる場合を含む。),一般異議申述期間又は特別異議申述期間を経過するまでに異議が述べられなかったとしても,住宅資金特別条項を定めた再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合に当たるか否かの判断に当たっては,当該再生…
重要事実
賃借人である抗告人は、老人ホーム用建物を賃貸人(相手方)から20年間の約定で賃借した。契約には、契約当事者の実質的変更を理由とする解除条項及び多額の違約金条項があった。抗告人は業績不振を受け、相手方の承諾なく新設会社へ事業を承継させる吸収分割を行い、債権者異議手続を経て本件賃貸借契約の地位を承継させた。承継会社は資本金100万円で、違約金債務を大幅に下回る資産しか持たず、分割後の賃料も滞納した。相手方は契約を解除し、抗告人に対し違約金を請求した。
あてはめ
本件契約は建物の建築費用回収を前提とした20年の長期契約であり、解除・違約金条項は賃借人変更による不利益回避を意図していた。抗告人はこれを理解しながら、無断で支払能力を欠く会社に事業を分割承継させ、自らは経済的利益を得る一方、相手方は支払能力のない会社への請求しかできなくなる著しい不利益を被った。また、本件違約金債権は分割後に発生したため、相手方は会社法789条1項2号の異議を述べることも困難であった。これらを総合すると、抗告人が分割を理由に債務を免れると主張することは信義則に反する。
結論
抗告人が本件吸収分割を理由に本件違約金債務を負わないと主張することは、信義則に反して許されない。したがって、相手方は抗告人に対し、本件債務の履行を請求できる。
実務上の射程
会社法上の債権者保護手続(789条)を潜脱するような濫用的会社分割に対する救済法理として、法人格否認の法理や詐害行為取消権に並ぶ有力な手段となる。特に、分割時点で未発生の債権(本件のような解除違約金)等、法定の異議手続で守られにくい債権者の救済において、信義則による免責主張の制限という構成は実務上極めて重要である。
事件番号: 平成16(許)19 / 裁判年月日: 平成16年8月30日 / 結論: 棄却
甲社と乙社らとの間で乙社らグループから甲社グループに対する乙社の営業の移転等から成る事業再編等に関して交わされた基本合意書中に,第三者との間で基本合意の目的と抵触し得る取引等に係る協議を行わないことなどを相互に約する旨の条項があり,甲社が,乙社らにおいてこの条項に違反したことなどを理由として,乙社らが第三者との間で上記…
事件番号: 平成20(許)49 / 裁判年月日: 平成21年8月12日 / 結論: 破棄差戻
債権の管理又は回収の委託を受けた弁護士が,その手段として本案訴訟の提起や保全命令の申立てをするために当該債権を譲り受ける行為は,他人間の法的紛争に介入し,司法機関を利用して不当な利益を追求することを目的として行われたなど,公序良俗に反するような事情があれば格別,仮にこれが弁護士法28条に違反するものであったとしても,直…
事件番号: 平成29(許)3 / 裁判年月日: 平成29年9月12日 / 結論: 棄却
破産債権者が破産手続開始後に物上保証人から債権の一部の弁済を受けた場合において,破産手続開始の時における債権の額として確定したものを基礎として計算された配当額が実体法上の残債権額を超過するときは,その超過する部分は当該債権について配当すべきである。 (補足意見がある。)
事件番号: 平成27(許)15 / 裁判年月日: 平成28年3月18日 / 結論: 棄却
建物の区分所有等に関する法律59条1項に規定する競売を請求する権利を被保全権利として,民事保全法53条又は55条に規定する方法により仮処分の執行を行う処分禁止の仮処分を申し立てることはできない。