甲社と乙社らとの間で乙社らグループから甲社グループに対する乙社の営業の移転等から成る事業再編等に関して交わされた基本合意書中に,第三者との間で基本合意の目的と抵触し得る取引等に係る協議を行わないことなどを相互に約する旨の条項があり,甲社が,乙社らにおいてこの条項に違反したことなどを理由として,乙社らが第三者との間で上記営業の移転等に関する協議を行うことなどの差止めを求める仮処分命令の申立てをした場合において,乙社らが上記条項に違反することにより甲社が被る損害は,上記基本合意に基づく最終的な合意が成立するとの期待が侵害されることによるものにとどまり,事後の損害賠償によっては償えないほどのものとまではいえないこと,甲社と乙社らとの間で上記最終的な合意が成立する可能性は相当低いこと,上記申立てが認められた場合に乙社らが被る損害は相当大きなものと解されることなど判示の事情の下では,上記申立ては,保全の必要性を欠く。
第三者との間で会社の営業の移転等に関する協議を行うことなどの差止めを求める仮処分命令の申立てについて保全の必要性を欠くとされた事例
民事保全法23条2項,民事保全法24条
判旨
独占交渉権を定める誠実協議条項の不作為債務は、最終合意が成立する可能性が社会通念上存しないと判断されるまで消滅しないが、その差止めについては民事保全法上の必要性を慎重に判断すべきである。
問題の所在(論点)
1. 相手方の解約通告や他社との交渉開始により、本件条項に基づく不作為債務は消滅したといえるか。 2. 仮に債務が存続する場合でも、交渉等の差止めを求める「保全の必要性」(民事保全法23条2項)が認められるか。
規範
1. 誠実協議条項に基づく不作為債務(独占交渉義務)は、最終的な合意を成立させるための手段として定められたものであるから、社会通念上、最終合意が成立する可能性が存しないと判断されるに至った場合には消滅する。 2. 仮の地位を定める仮処分(民事保全法23条2項)の必要性は、債権者が被る損害の性質・内容、最終合意成立の蓋然性、及び差止めにより債務者が被る損害等を総合的に考慮して判断する。
事件番号: 平成29(許)10 / 裁判年月日: 平成29年12月19日 / 結論: 棄却
賃借人Yが契約当事者を実質的に変更したときは賃貸人Xは契約を解除し違約金を請求することができる旨の定めのある建物の賃貸借契約において,Yが吸収分割の後は責任を負わないものとする吸収分割により契約当事者の地位をAに承継させた場合に,次の(1)~(3)など判示の事情の下においては,Yが,上記賃貸借契約を解除したXに対し,上…
重要事実
銀行グループ間で、事業再編(本件協働事業化)に向けた基本合意が締結された。本件基本合意書には、第三者と本件目的と抵触する交渉を行わない旨の誠実協議条項(本件条項)があったが、最終合意に至る義務や違約罰の定めはなかった。その後、経営難に陥った相手方は、他社グループとの経営統合を目指して本件基本合意の解約を通告し、他社と交渉を開始。抗告人は、本件条項に基づき第三者との交渉差止めを求める仮処分を申し立てた。
あてはめ
1. 相手方が他社と基本合意を締結したことで最終合意成立の可能性は「相当低い」といえるが、流動的要素が残る以上、社会通念上可能性が皆無とはいえず、債務は消滅していない。 2. しかし、最終合意義務がない以上、抗告人が被る損害は「有利な立場で交渉し、合意成立を期待する利益」の侵害にすぎず、事後の損害賠償が可能である。一方で、相手方は経営窮状にあり、長期間の交渉差止めによる損害は甚大である。最終合意の蓋然性の低さと比較しても、抗告人に「著しい損害」等が生じるとはいえない。
結論
本件条項に基づく債務は消滅していないが、保全の必要性を欠くため、差止めの仮処分は認められない。
実務上の射程
基本合意段階の独占交渉権の法的効力を肯定しつつ、差止めという強力な救済手段については、最終合意への法的義務の有無や、対象企業の経営危機の状況等を踏まえ、保全の必要性を厳格に判断する枠組みを示した。実務上は、損害賠償による解決が原則となることを示唆している。
事件番号: 平成20(許)36 / 裁判年月日: 平成21年1月27日 / 結論: 破棄自判
特許権又は専用実施権の侵害差止めを求める仮処分事件は,特許法105条の4第1項柱書き本文に規定する「特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟」に該当し,上記仮処分事件においても,同項に基づく秘密保持命令の申立てをすることが許される。
事件番号: 昭和24(オ)230 / 裁判年月日: 昭和26年2月6日 / 結論: 棄却
一 特別事情による仮処分取消申立事件において、仮処分の取消により債権者の被ることあるべき損害が金銭によつて償われ得るものであることが認められる以上、その他の争点については判断することなく仮処分を取り消しても違法ではない。 二 特別事情による仮処分取消申立事件において、仮処分の取消により債権者の被ることあるべき損害が金銭…
事件番号: 平成16(許)20 / 裁判年月日: 平成16年12月16日 / 結論: 破棄自判
1 非訟事件手続法19条1項所定の非訟事件の裁判を取り消す裁判に対しては,即時抗告をすることはできず,通常抗告をすることができる。 2 過料の確定裁判の存在を看過して同一事由について非訟事件手続法208条ノ2に規定する過料の裁判をした場合には,同裁判を行った裁判所は,職権により確定後の同裁判を取り消すことができる。