一 民訴第七五九条の特別事情による仮処分取消の申立は、仮処分申請事件の口頭弁論において、抗弁としてなすこともできる。 二 仮処分によつて保全せらるべき権利が金銭的補償によつてその終局の目的を達し得るかどうかは、本案訴訟における請求の内容および当該仮処分の目的等諸般の状況に照らし、社会通念に従い客観的に考察し判断すべきものである。
一 民訴第七五九条の特別事情は仮処分申請事件の口頭弁論において抗弁として主張できるか 二 被保全権利と金銭的補償能否の判断の標準
民訴法759条
判旨
仮処分により保全されるべき権利が金銭的補償により終局の目的を達し得るかは、本案の請求内容や仮処分の目的等を諸般の状況に照らし、社会通念に従い客観的に判断すべきである。また、債務者は仮処分申請事件の口頭弁論において、特別事情による仮処分取消しを一つの抗弁として主張することができる。
問題の所在(論点)
1. 特別の事情による仮処分取消しの申立てを、仮処分申請事件の手続において抗弁として提出することができるか。 2. 「金銭的補償を得させることにより仮処分を取り消すことができる」ための判断基準は何か。
規範
1. 仮処分取消しの要件たる「特別の事情」(民事保全法31条参照)のうち、金銭的補償による取消しの可否については、保全されるべき権利が金銭的補償によってその終局の目的を達し得るかどうかを、本案訴訟における請求の内容および当該仮処分の目的等諸般の状況に照らし、社会通念に従い客観的に考察して判断する。 2. 仮処分申請事件の手続において、債務者は特別事情による仮処分取消しの申立てを、独立の申立てとしてではなく、一つの抗弁として提出することができ、特段の事情がない限り控訴審においても随時提出し得る。
重要事実
債権者が申し立てた仮処分申請事件の控訴審において、債務者が「特別の事情」による仮処分取消しの申立てを抗弁として提出した。これに対し、債権者は、当該取消しの申立ては別個独立の申立てとしてなされるべきであると主張して争うとともに、本件仮処分の取消しによって債権者が被る損害は評価・測定が不能であり、立証も著しく困難であるから、金銭的補償による取消しは認められないと主張した。
あてはめ
1. 債務者が原審でなした特別事情による取消しの主張は、独立の申立てではなく本件仮処分申請事件における抗弁としてなされたものであり、原審もその趣旨で審理を継続し当事者も異議なく弁論している以上、別個独立の申立てであることを前提とする債権者の主張は採用できない。 2. 本案の請求内容や仮処分の目的等に照らせば、本件事実関係の下では金銭的補償が可能であるとした原審の判断は首肯できる。債権者は損害の立証が著しく困難であると主張するが、本件事実関係においては、金銭的補償を不可能視するほど立証が困難であるとは認められない。
結論
仮処分取消しの主張は抗弁として提出可能であり、本件では社会通念上、金銭的補償により目的を達し得る客観的事情が認められるため、特別事情による仮処分取消しは適法である。
実務上の射程
民事保全法31条の「特別の事情」による保全取消しの判断枠組みを示す重要判例である。答案上は、金銭賠償による代替可能性を論じる際、「本案の請求内容」「仮処分の目的」「社会通念による客観的判断」という要素を引用してあてはめるべきである。また、保全命令に対する不服申立手続における主張の形式(抗弁としての性質)についても言及が可能である。
事件番号: 昭和24(オ)330 / 裁判年月日: 昭和26年6月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】仮処分決定に対する異議申立てにおいて、申立人が「特別の事情」に基づく取消しを求める意思を明確に示していない限り、単にその原因となるべき事情を言及したのみでは、裁判所は取消しの要否を判断する義務を負わない。 第1 事案の概要:被上告人(債権者)が上告人(債務者)に対し、不動産処分禁止の仮処分を執行し…