判旨
特別事情による仮処分の取消しの審理において、裁判所は被保全権利の存否等を判断する必要はなく、もっぱら特別事情の有無を判断すべきである。また、被保全権利が金銭的補償によってその終局の目的を達し得る場合には、特別事情の存在が認められる。
問題の所在(論点)
特別事情による仮処分取消しの審理において、被保全権利の存否や仮処分の理由(保全の必要性)について判断する必要があるか。また、いかなる場合に「特別事情」が認められるか。
規範
特別事情による仮処分命令取消しの申立て(現行民事保全法31条参照)の当否を審理するにあたっては、仮処分により保全されるべき実体上の権利の存否および仮処分の理由(必要性)について判断する必要はなく、もっぱら仮処分取消しの「特別事情」の有無を判断すべきである。ここでいう「特別事情」とは、仮処分の執行により債務者が受ける不利益と、仮処分の維持により債権者が受ける利益を比較衡量し、仮処分を維持することが債務者にとって酷である一方、債権者の権利は金銭的補償等によってその目的を達し得る場合を指す。
重要事実
上告人(債権者)による仮処分命令に対し、相手方(債務者)が旧民事訴訟法759条(現行民事保全法31条)に基づき「特別事情」による仮処分取消しを申し立てた。原審は、単に耕作反別の多寡という一事情のみならず、諸種の事情を総合的に考慮した結果、当該事案における被保全権利が金銭的な補償によってその終局の目的を達し得ると判断し、特別事情を認めて仮処分を取り消した。これに対し、上告人が被保全権利の存否等を判断せずに取消しを認めたことの違法を主張して上告した。
あてはめ
仮処分取消しの審理においては、実体上の権利の存否に踏み込む必要はなく、取消しの根拠となる独立した要件としての「特別事情」の有無のみを判断すれば足りる。本件において原審は、被保全権利の性質や本件に至る諸種の事情を総合的に検討している。その結果、本件の被保全権利は代替的な金銭賠償によって債権者の利益が十分に回復し得る性質のものであると評価される。したがって、仮処分を維持し続ける必要性よりも債務者の不利益が上回る状態にあり、特別事情の存在を認めることができる。
結論
特別事情による仮処分取消しの審理では、実体的な権利の存否を判断する必要はない。被保全権利が金銭的補償により目的を達し得る等の事情を総合して特別事情を認めた原審の判断に違法はなく、本件上告は棄却される。
実務上の射程
現行民事保全法31条(旧民訴法759条)の解釈として確立した判例である。答案上は、債権者に生じる回復困難な損害の有無と、債務者が受ける不利益を比較衡量する際の規範として活用する。特に、権利の性質が金銭的補償で代替可能かどうかが「特別事情」の核心的な考慮要素となる点に留意すべきである。
事件番号: 昭和28(オ)1200 / 裁判年月日: 昭和30年9月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】仮処分の取消事由である「特別の事情」の有無は、被保全権利が金銭的補償により終局の目的を達し得るか否かを基準に、社会通念に従い客観的に考察すべきである。債権者の不利益が単なる収益の喪失にとどまる場合、当該被保全権利は金銭的補償により目的を達し得るものとして、特別の事情が認められる。 第1 事案の概要…